葵うたのweb連載【葵色日記】#27 寂しい夜のラジオとおとうと

別にいいけど、なんか気になる。
最近そんなことが増えました。

物の配置にしろ、人にしろ。
物は動かせば済むのだけれど、人は無闇に動かすべきじゃない。
それでも対人関係で生まれるちょっとした違和感は、別れた後の帰り道にじわじわと数珠繋ぎに湧き出てくる。

(あれはどういうつもりだったんだろう)
(まぁ、気持ちは分からんでもないが)
(正直に言えばよかったのか)
(いや、あれは無反応が正解だった)
(にしても腹立つなぁ。別にいいけど)
てな感じで。

文字にすると、何だかネチネチと嫌な感じだ。
もちろん価値観はそれぞれ違う。
立場が違えばなおさら。

でもなぁ、言い方ってもんがあるでしょうよ! 
どこにプライド置いてんねん!
とエセ関西弁が炸裂する時もあります。
生きてりゃ誰だってあります。
私いいように使われてんなぁ、とか。

戦い方はいろいろあるにしろ、対人関係で切羽詰まった時は、先人が落としどころをくれます。

必殺奥義「にんげんだもの」。
相手も自分のこの感情も“にんげんだもの”と受け入れ、ならばどうするか。
感情は芸の肥やしなので甘んじて受け入れ記憶します。
敏感に何か思う土台があるのは大切なこと。
よそはよそ! うちはうち!
誇れる私でいたいものです。

そんなことを1人脳内会話しながら満員電車にもまれ、密かに殺気を放ちながら帰宅し、愛犬に泣きつく日。
一通り済んだら、シャワーを浴びてラジオを聴きながらビールを飲む。
ラジオが好きなのは、電波を挟んでそんな人間関係の話ができるからだと思う。
少し寂しい夜。静かな部屋に私と愛犬とラジオ。
話ができると言っても、こちらの声は聞こえていないのですが。

それでも不思議なことに、空間がつながるもので。
それは一緒にお酒を交わしているような、収録を観覧しているような、多数に混じってこそっと盗み聞きしているような空間。
番組によって距離感が変わるのも面白い!

お互い見えていないから別に真顔でもいいし、途中で家事をしたりトイレに行ったりしてもいい。
気の楽さがある。いつだって、ラジオは良い。

かくいう私も、interFMさんで深夜のラジオを一年と半年間ほどやらせていただいていました。
深夜の夜にぴったりな音楽(主にCity pop)をディレクターの吉田くんと選曲し合い、曲についてや最近あったことについてなどをゆるーくお話しするという内容。

間違いなく楽しかったし、選曲はなかなか良かったと思う。
曲を通して時間を共有するラジオ番組。
もしまた機会をいただけるなら、今度はもっと日常のあれやこれやを共有したいなと思っています。
大好きな面白い友達も呼びたい。老若男女。スナックのママさんも呼びたい。
なんて妄想に花を咲かせる。
実際そんな企画を考えたら、無法地帯でスケジュールもあるし、、、

責任取れるか分からないから今はここだけの妄想にしておこう。
ただやっぱり、メッセージを貰うのはどうしたって憧れです。
その時は、本当の本当によろしくお願いします。

今、ラジオを聴きながら書いているのだけれど、メインMCの方が阿佐ヶ谷の立ち飲み屋さんの名前を出して思わず手が止まってしまった。
キリよく連載を終わらせようと思っていたのだけれど、ダラダラとすみません。もう少しお付き合いください。

その飲み屋さんは、本題に対してのちょっとした例だったので、特に深掘ることもなく話は過ぎていった。
でも、こういう知っている固有名詞が唐突にでできて「おっ」っとなるのも、地味に嬉しい。

東京に遊びに来た母と弟を、その居酒屋に連れていったことがある。
店に入ったらお金をまず枡に入れて、今日はこのぐらいのお金を使うかなと決めてから注文する。
なかなか渋いお店だ。

そこで炭酸が飲めなかった弟が、レモンサワーを頼んでいてびっくりしたのを覚えている。
うちの弟は引っ込み思案でビビリで恥ずかしがり屋で、いつも私の後ろに隠れているような子どもだった。
家が大好きで、家族でどこかに出かけたらすぐに「帰りたい」と言い出し、旅行を楽しみに張り切っていた祖父にゲンコツくらって泣いていた。

私なんかは怒られて「家から出ていけ!」と言われたらふらっと出ていって、そのうち入れてくれるだろうと玄関の前で寝たりするような大人をなめたガキンチョだった。
けれど、弟は必死に玄関のドアにしがみついて泣き叫んでいた。
そんな弟がいたたまれなくて、よくかばってあげていたものだ。

そんな弟もいつしか私の背丈を超えて、私は喧嘩で勝てなくなって、私が東京へ出てから接点がなくなっていった。
ときおり母から聞く弟の話は、学校で生徒会長をやっていたり、大学で経済を学んでいたりしていて。
今は経営をしていて、かわいい彼女がいるらしい。

「彼女と熱海だって」と母から送られてきた写真には、真っ青な海が一望できる高台の広い庭に、しっかりした屋根のついた石造りの露天風呂。
よく見るとその風呂の中で両腕を広げ浸かっている逞しい背中の弟。
弟よ、ずいぶんと立派におなりになられて……。

姉、文句言ってる場合じゃないですね。がんばります。
そんな弟は身内の誰よりも私の関わった作品を見ているらしい。

【毎連載恒例のオススメの一冊】


「台所のラジオ」 著者/吉田篤弘

#28は9月4日(月)の公開予定です。

葵うたの aoi utano
’99・7・4埼玉県出身。蟹座。B型。
俳優・タレント。ドラマ「ガールガンレディ」などの出演経験があり、アニメ「Artiswitch」では主人公の声優を担当。自身のInstagramでのリール「#あおいのひと頃」が好評配信中。Cody・Lee(李)のMV「おどるひかり」に出演中。

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