空と日向と太陽と──念願のデビューを果たした日向坂46に捧ぐ

一粒の種から芽吹いた〝けやき〟は、地道ながらも空へ向かって枝を伸ばしていく。やがて、陽の光を浴びて大輪の花を咲かせるのだった──。

日向坂46の〝あゆみ〟を要約するならば、こんな感じだろうか。

知っている人には野暮ったい説明になるが、「けやき坂46(ひらがなけやき)」は、欅坂46に1人遅れて合流した長濱ねるの〝居場所〟としてつくられた、という特異なルーツを持つ。その後、選りすぐられた11人の1期生と長濱は、約半年をかけて東名阪と北海道、福岡のライブスペースをまわる「Zeppツアー」を敢行。さらに9人の2期生が加わり、幕張メッセのイベントホールでのツアーファイナル、欅坂46の代打で挑んだ日本武道館3デイズ、けやき坂46単独のアルバム「走り出す瞬間」リリース&東名阪ホールツアーと、段階を経て発展していった。

だが、その間もけっして順風満帆だったわけではない。

特に、「Zeppツアー」の北海道公演直前、グループの「種にして根たる存在」だった長濱が欅坂46の活動に専任したこと、アルバムリリース直後に1期生・影山優佳が学業専念で休業したことの2つは、ともに「これから」というタイミングだったこともあって、メンバーたちの喪失感や危機感は計り知れないものだっただろう。それでも、彼女たちはその都度ピンチをチャンスに変え続けて、’18年末には再び日本武道館3デイズ「ひらがなくりすます」を大成功に終わらせる。

そして、ついに……2019年3月27日、かつては「手の届かない夢」だったシングルデビューを果たすほどの大ジャンプを成功させる。記念すべきファーストシングル「キュン」は、初日だけで35万9528枚を売り上げる(もちろん、女性アーティストのデビューシングル初日&初動新記録)という快挙を達成した。

彼女たちの節目節目を見届けてきたと自負するB.L.T.としても、まさしく快哉を叫ばんとする思いだ。忘れもしない、2016年8月某日。うだるように暑かった夏の日、B.L.T.は「けやき坂46」のオリジナルメンバー12人の初グラビア撮影&インタビューの機会に恵まれた。それはオーディションで選ばれた11人と長濱ねるが初めて一緒に行う、本格的なグループ活動でもあった。欅坂46の2ndシングル用の白い制服と対をなす、紺色の制服に身を包んだ「ひらがなけやき」の面々が、別の現場を経て後から合流した長濱を出迎える。待望の瞬間だったことは想像に難くない。中でも、高本彩花は感激のあまりに涙を流し、撮影を前に目を真っ赤に泣きはらすほどだった(この様子は、日向坂46デビューシングル『キュン』Type-Cに収録されている特典映像『けやき坂46ストーリー〜ひなたのほうへ〜高本彩花編』で見ることができる)。

もう昔話として、明かしてもいいだろう。その日に泣いたのは高本だけではなかった。今でこそ頼れるキャプテンとしてグループをまとめ、ライブでの安定したMCとエモーショナルな煽りに定評がある佐々木久美も、グラビア撮影最初のシャッターが切られた瞬間、顔と体をこわばらせたのち、落涙してしまったのだ。実は昨夏、「blt graph.vol.36」(’18念9月発売)の撮影で堂々とカメラマンと対峙する久美に、〝初撮影時の涙〟の真相を聞いたことがある。いわく、いよいよ始動するのだという感慨と同時に、先の見えない中で一歩目を踏み出すことへの不安が入り混じり、どうしたらいいのかわからなくなって、感情がグジャグジャになってしまった──とのこと。何者でもなかった女の子たちが、数年の間にさまざまな得がたい経験を重ねて、たくましくなっていったのだと思うと……それこそ目頭が熱くなるのを禁じ得ない。

そんな彼女たちが、はっきりと「目標はシングルデビュー」と明言するようになったのは、’18年の夏だった。B.L.T.10月号(8月発売)の欅坂46/けやき坂46特集の高本彩花&宮田愛萌の1期&2期の同い年対談で、2人は次のように語っている。

高本「私の超個人的な思いなんですけど、漢字(欅坂46)さんがすごく好きだから、これからも同じグループのカップリング曲を歌う立場でいいから、繋がっていたいという気持ちがあって。でも、ひらがなが次に進んでいくためには単独シングルをリリースすること目標だなって思っています。けど、それによって漢字さんとの関係性が薄くなってしまうのは、すごく寂しいんですよ。シングルは出したいけど、漢字さんと離れたくないっていう……それこそ〝アンビバレント〟な気持ちの状態だったりします」。

宮田「私も基本的には彩ちゃんと同じで、漢字さんのことを尊敬していますし、大好きなので、できれば繋がっていたいんですけど、デビューアルバムをリリースしたことで、ひらがなの曲だけでライブができるようになったことが、すごくうれしかったんです。その先がどこかと考えると、やっぱりシングルデビューという目標に行き着くのかなって。行く行くは、漢字欅さんという素敵なグループと肩を並べられるような存在として、ひらがなを認めてもらえるようになりたいですね」。

また、キャプテンの佐々木久美も、前出の「blt graph.vol.36」のインタビュー内で、やはりシングルデビューへの意欲をのぞかせていた。

佐々木久美「これは私のダメなところだと思うんですけど、普段『私は何者だろう、本当の自分って何だろう?』みたいに思うことがほとんどなくて。基本、〝何事もどうにかなる〟と思っているので、突き詰めて考えるのが向いてないんだろうって。でも、けやき坂46をもっともっと大きなグループにしたい、という思いだけはずっとあるんです。デビューアルバムを出して終わり、じゃなくて、その先にある『単独シングルリリース』という目標を、いつか実現させたいなって思っています。ただ、勢いにまかせてっていうんじゃなくて、ちゃんと実力をつけて『今しかない』と思えたときに、出させてもらえたらうれしいです」。

単独アルバムリリースとホールツアー、さまざまなフェスへの参加に、メンバー10人が出演した舞台「マギアレコード 魔法少女まどか マギカ外伝」、同じく舞台の「ザンビ」などで成功体験を重ねるにつれ、雲をつかむような話だった「シングルデビュー」への気運が、日に日に高まっていく。彼女たちにも、その実感があったのだろう。’18年末に発売されたB.L.T.2月号増刊けやき坂46版では、ほぼ全員のメンバーが「シングルデビュー」を’19年の目標に掲げていた。それがこのほど現実のものとなり、さらには金字塔まで打ち立てる。これぞ、〝平成最後のシンデレラストーリー〟と呼ばずして何と言おう──。

思えば、けやき坂46=日向坂46の歴史は、〝居場所〟探しとアイデンティティーの確立に奔走した3年間でもあった。誤解を恐れずに言うなら、ひらがなけやき時代はカップリング曲を通じて、欅坂46のシングルに〝間借り〟していたような状態であり、だからこそ同じ響きの名を持つ異なるグループという立ち位置に、常々「ひらがなけやきって、何者なんだろう?」と自問自答し続けた印象が強い。その長き問答は「日向坂46」へのリボーンという、最高にして理想的な落としどころをもって決着する。しかも、最後の1ピースたる唯一の3期生・上村ひなのの加入とともに。先だって佐々木久美が言っていた「今しかないタイミング」は、まさしくこの春だったというわけだ。

そして、彼女たちは言う。「私たちのグループカラーは空色です。でも、空って何色にも染まれるんです」と。そう、陽が昇るとともにグラデーションを描く朝焼けにも、抜けるように真っ青な晴天にも。あるいはダークな曇天や、まるで泣いているかのような雨空にも。はたまた、燃えるような橙の夕陽が落ちる黄昏どきに、漆黒の空間に星が散りばめられた夜空にもと……それは実に色彩豊かなのだ。そんなグループのカラーを象徴する楽曲が、けやき坂46時代から彼女たちに授けられていたことも、ドラマティックというほかない。
日向坂46のデビューシングル「キュン」にも収録されている「JOYFUL LOVE」。メンバーがそれぞれ異なる色の衣装をまとい、グラデーションを織りなしていくパフォーマンスに呼応して、ファンも会場のエリアごとにペンライトの色を分けて点灯し、虹色の空間をつくり出すことで〝完成〟する、極めてピースフルな愛の賛歌だ。奇しくも、この景色を予測していたメンバーがいる。2期生の河田陽菜は、’18年6月に発売されたB.L.T.8月号のインタビューで、ゆっくり言葉を選びながら、グループの運命を示唆するような〝言霊〟を紡いでいった。

河田「ひらがなけやきって、虹みたいだなと思うんです。1期さんと2期生、そして応援してくださるみなさんの個性やカラーが、それぞれ虹のように並びながら1つの個体をつくっているんじゃないかなって。ライブ中に特に感じるんですけど、ただパフォーマンスをするんじゃなくて、お客さんと一緒に盛り上がって1つになる時に、〝ひらがなの色〟が完成するのかなって、自分では思っているんです。うまく言葉にできないんですけど……」。

居場所を探して坂を登り続けていくと、彼女たちの前にはどこまでも空が広がっていた。だから、誰よりも高く跳ぼうと、がむしゃらに上を目指した。まさか空そのものが自分たちの居場所になるとは、知る由もなく。
空と日向と太陽と。すなわち、グループとメンバー、そしてファン。この絶妙なるトライアングル=三角形が織りなす次なる時代のシンデレラ・ストーリーは、まだほんの序章に過ぎない。

 

そんな日向坂46のメンバー20人と、彼女たちを冠番組「ひらがな推し」(現「日向坂で会いましょう」)で見続けてきたオードリーが登場、全50ページにもおよぶ大特集を展開しているB.L.T.5月号増刊日向坂46版は、こちらから!

 

text=平田真人