<第2回>
「原宿駅前ステージ」の振りつけに留まらず、演出並びに原宿駅前パーティーズの育成も手がける振付師の牧野アンナ先生のロングインタビューの第2回目。インタビューは、振り付けの話から広……。
結成当初、ふわふわにはどんな印象を持っていましたか?
「原石としての良さ、クオリティーの高さはすごくあると思ったんですよ。たくさんあるアイドルグループの中でもルックス的なレベルも高いほうですし。『原宿駅前ステージ』の公演で最後に、ふわふわだけでなく原宿駅前パーティーズのみんなで『HARAJUKU♡駅前Stageで逢いましょう!』っていう曲を歌いながらランウェイを回るんですけど、“美少女の回転寿司”って言われたこともありました(笑)。(岩崎)春果なんかは天性のアイドルみたいなところがありますしね。あの子は普段から女性スタッフに対しても、目が会うとニコニコと笑ってきて、人の心をつかむすべを子どもながらに知っているというか(笑)。人に印象づけていくことが、計算を含めてかもしれないけど、自然にできている。だから、ふわふわの取っ掛かりとしてはすごく引きが強いですよね。彼女を入り口にして、いろんなタイプの子たちがふわふわにいますから、それぞれの子を好きになっていくっていうふうになっているかなと思います」。
メンバーの立ち位置はどのように決まっていったんですか?
「フロントに立つ子っていうのは最初はやっぱり事務所サイドが考えるわけで、“この子たちがいけるんじゃないか”っていうところで作り込んでいきました。ふわふわの曲で最初にできたものが『フワフワSugar Love』と『White Sweet Kiss』だったんですけど、『フワフワ〜』は(中野)あいみがセンター、『White〜』は春果がセンターでした。でも『原宿駅前ステージ』の公演が始まったらファンの人たちの反応や力によって頭角を現してきた子もいますよね。遠藤みゆなんかはそうで。彼女は2番手、下手したら3番手くらいの存在だったのが、今では『晴天HOLIDAY』という曲で、(平塚)日菜とダブルセンターをしています。ファンの声を受けて、いろんな子たちにセンターをやらせてみたいなとは思っていますね。あと、今、リーダーを務めている(赤坂)星南のポジションがすごい勢いで前に来ているんですよ。最初、星南は4列目スタートだったんです。しかも彼女はすごい勢いで意識が変わってきて。今だから言えるんですけど、レッスンがスタートした当初は、彼女にこの活動は無理なように思えて、“辞めるか、辞めないかどっちかにしなさい”っていうところにずっといた子なんですよね」。
それはまたどうしてでしょうか?
「彼女は大学生で、確かバイトもしていたし、部活もやっていたから、レッスンに来られたり来られなかったりが非常に多くて。『部活の試合に出るから、この日とこの日は劇場公演に出られません』って言われちゃったりすると、こっちサイドにしたら“部活を優先するんだ、こっちも本番なんだけど……”って思っちゃいますよね。でも、活動していく中で、どんどん意識が変わっていったんです。そんな彼女に今、リーダーをさせていますけど、ちょっと落ち込んでいる子がいると、気がついて声をかけに行くし、事務所の人たちから何か衝撃的な発表があったりして、みんなが動揺していたりすると、『すみません、ちょっと時間をください。みんなで話をしたいので』と言ってきたりするようになりました。ニックネームの通り、ほんとにみんなの“ママ”なんですよ。最年長だからっていうこともあるかもしれないですけど、ふわふわを精神的に支える軸になっていますね。そんな風に成長するとは、正直、思いませんでした(笑)」。
ふわふわの最初の持ち曲となった2曲「フワフワSugar Love」と「White Sweet Kiss」の振り付けはどのように考えていったんでしょうか?
「ふわふわの振りは、かわいい系にしようとは思っていたんです。でも、曲自体が最初、『この曲をふわふわに』っていうふうに来たわけではなかったんですよ。原宿駅前パーティーズのために、ドサッと30曲くらい来て、『この中で使えるものがあったら使ってみて』みたいな感じだったんです。それで全部聴いて、この曲はふわふわに、この曲は原宿乙女に、この曲は原駅ステージAに、って割り振っていきました。ピンクダイヤモンドに関しては、また別だったんですけど」。
3チームに関しては牧野先生のほうで、どういうグループにしていくかというコンセプトも固めていったわけですね?
「そうですね。曲を割り振って、方向性を決めていきました。乙女はスタイルのよさを活かしてクールにかっこよく見せていく。Aはとにかくダンス。めちゃくちゃ踊っているように見える振りにしていきたかったんです。ふわふわはとにかくかわいくっていうことですね。でも、同じ人が振り付けをしちゃうとどうしても似ちゃうので、あえてそれぞれに振付師を立てました。この振り付けをほかのチームがやったら違和感があるくらいにしたくて。私自身はふわふわの振り付けを担当させてもらっています」。
ふわふわの振り付けだけを担当している理由は?
「ふわふわのようなかわいい振りや構成を考えることが一番得意だから(笑)。私、Aのような踊りをメインにしているチームの振りつけはあんまり得意じゃなくて。SKE48は割りと踊りが注目されがちですけど、いわゆる今風な踊りじゃないんですよ。安室奈美恵や三浦大知がやっているような踊りじゃなくて、すごく運動量がたくさんある振りになっているんです。それで踊っている感を出しているというか。踊りの基礎がない子たちが本気のスタイルでやると、ただただかっこ悪く見えちゃうので、運動量で勝負しているんです。でも、Aはそっちじゃなくて、もっと本格的なダンスにしたかったので、私がやらないほうがいいっていう」。
あらためて今一度、ふわふわの振りのコンセプトを教えてください。
「まず単純にかわいいことですね。それから『原宿駅前ステージ』のランウェイのあるステージをどう活かしていくか、ファンの方たちとの距離の近さをどう活かしていくかっていうところです。だから、振りの中に“じゃんけん”や“あっち向いてホイ”など、ファンの方と一緒にできるものを取り入れるようにしました。『フワフワSugar Love』は、ふわふわがどういうグループなのかというところでかわいらしさをしっかり見せて、『White Sweet Kiss』ではファンの人たちの間近に来て、“じゃんけん”をすることで、顔をしっかり見てもらって覚えてもらう時間を作りました。目が合うことで好きになってもらうっていう。そうそう、お客さんと目が合ったら3秒、絶対目を離しちゃダメって教えているんですよ。相手が目を逸らすまでは、外しちゃダメって。あとは、じゃんけんをして勝ったとか負けたとかっていう感情を共有することによって、友達のような親近感を持ってもらえるし、勝って喜んだり負けて悔しがったりするメンバーの表情を間近で見られることで、より男心をくすぐるんじゃないかと(笑)。ファンの方たちをいかに巻き込んでいくかっていうのは、ふわふわの特徴の1つですね」。
『原宿駅前ステージ』のようにランウェイが常設でない、一般的なステージに立つ機会が増えています。そういうときはどう対応しているのでしょうか?
「大きいステージのときには、“客席との距離感をいかに埋めていくか”っていうことを意識しています。なので、なるべくステージを降りて客席の近くに行く。そういうとき、客席のいろんなところから見てみるんですけど、5月にお台場のZepp DiverCity Tokyoで行われた公演の当日、リハーサルに参加できなかったんですね。でも、昼の部は見に行ったんですよ。そしたら、一番後ろの通路にメンバーが来なくて、私、そのあたりで座って見ていたから、すごい寂しくて(笑)。ここまで来てくれないんだ〜っていう気持ちになったんです。それで夜の部までの休憩のときに、急遽ルートを変えて、一番後ろの通路も通るようにしたんです。地味にですけど、そういう工夫はしていますね。あと、ふわふわはほかのチームと比べて、人数が多いので、立ち位置というか、構成の仕方でいろいろ変化をつけていかないと、のぺっとしてしまうんですよね。しかも、歌っているメンバーを固定にすると、シャッフルがあんまりないので、何人かの島を作ることによって、立体感を出すようにはしています」。
2枚目となるニューシングル「恋のレッスン」も、さきほどおしゃっていた“ファンの方を巻き込む振り”にまさになっていますね。
「そうですね。“じゃんけん”や“あっち向いてホイ”に当たるものが『恋のレッスン』では、メンバーが持ちながら踊っているサイリウム。この曲になるとファンの方も一斉にペンライトを出して、みんなで同じフリができることをコンセプトに作りました。あと、彼女たちが曲の途中で“すき”ってペンライトで書いているのわかりました? ああいう感じで、『あれ? 何か書いているよな』ってお客さんが気になるような要素を、ふわふわではちょっとずつ入れられたらいいなとも思っています。この曲に関しては、基本、歌パートが固定というか、メーン9人を決めていて。『フワフワSugar Love』は2番になると、後列のメンバーも歌パートがあるんですけど、『恋のレッスン』に関しては元々、選抜9人で作っていたものをCDのために全員バージョンにしているので、割りと固定で歌パートを作っているのが、前作とはちょっと違うところかなって思います」。
どういう行程で振り付けっていうのは作っていくんでしょうか?
「最初は立ち位置表から作るんです。それで構成を考えていくんですけど、今まで私がAKB48やSKE48でやっていたのと違うのは、歌パートの決定権がありまして。なので構成を考えながら、ここの振りで誰が歌うっていうのを作り込んでいけるんです」。
そうなんですか! だから、先生が“振り付け”だけでなく“演出”も兼ねているわけですね。そういうことって、珍しいことですよね?
「だいたい事務所で決めたりですよね。普通、レコーディングのプロデューサーが声のバランスを考えてパートを分けた後に、(振付師のところに)下りて来ることが多いので、“振りをこうしたいから、この子をこっちで歌わせたい”とかっていうのはできないんですよ。それで苦労した部分もいっぱいあったので、そういう意味で、ふわふわに関してはだいぶ自由にやらせてもらっていますね」。
歌パートの決定権があると、歌と振りをシンクロさせられるということですよね?
「そうなんですよ。なので、一体感を出しやすいんです。振りありきで、ある程度、歌割りまで考えていけるので。『恋のレッスン』でもフロントが3・3・3で分かれていて、その3人の中の1人が前に出て来て歌うところとか、振りありきで作っているので。だいたい私、振り付けはサビから考えていくんですけど、Aメロ、Bメロはあんまり考えてメンバーの振り入れにはいかないんですよ。考えていっても忘れちゃうので(笑)。なんとなくこんな感じっていう構成は頭にあるんですけど、サビとか入れられるところから入れて、みんなが復習しているときに考えます。そんな感じだから、“ここで1人ずつ歌いながら前に出てきて”みたいに、動きと歌パートをリンクさせることができるんですよ。あと、全体を見て、ちょっとのぺっとしてるな、つまらないな、パターン化されてるなってなると、そこを変えていくこともできますし」。
とても自由度が高いんですね。
「ほかのグループの場合、普通は振りを入れられる時間がすごく限られていて“ちょっと待って、やっぱり変えよう”っていうことができない。せーのでメンバー全員に振り入れができるようなこともほとんどないし、歌詞が来ることも遅いので(笑)、基本的には全部作り込んでからいかないとダメなんです。実際、大人数で踊ってみたら、ちょっと違ったなあっていうところがいっぱいあるんですよね。でも、あとから修正はきかないことが多いんです。彼女たちはすごい忙しさだったからしょうがないんですけど。それに、そんな満足いくまで作り込めるのが当たり前のわけではないですしね」。
ちなみに、AKB48もご担当されていましたが、苦労された点などはありましたか?
「AKB48の曲は割りといつも大変でした(笑)。歌詞が早めに来ていたりする曲はダンサーさんに踊ってもらって、雰囲気を見て、変更点を全部直してから、振り入れするので大丈夫なんですけど、『ポニーテールとシュシュ』なんかは特に、メンバーに直接入れなきゃいけなかったんですよね」。
具体的に、どういったところが大変でしたか?
「私は基本、歌詞に合わせて振りを作るんですけど、サビの『ポニーテール』っていう歌詞のところを、どう表現したらいいんだろうっていうので苦労しました。何回もいろんなバージョンを作っても、秋元さんから『想定内だな』っていう言葉だけが帰ってくるんですよ。想定外のポニーテールの振りってどんなのだよ! って思いながら(笑)、また作っても『なんか引っかかりがない』って言われたりしていて。グアムのMV撮影には、私は行けなくて、アシスタントが行ったんですけど、サビの振りは固まらないままだったんです。日本で私が振りを撮影した映像をグアムに送って、振り入れしてもらったんですが、結局、MVの振りと、そのあとのテレビ出演時の振りと変わっているんですよ。でも、最後まで秋元さんのOKは出ないまんまでしたね、あの曲は(笑)。それ以来、髪飾り系の振りはトラウマでやりません! 『Everyday、カチューシャ』の振りつけも断りましたから。シュシュでだめだったからカチューシャも思いつきません! って(笑)」。
(次回に続く)
●PROFILE
牧野アンナ(まきの あんな)
’71・12・4東京都出身。
沖縄アクターズスクールでチーフインストラクターを務めた後、’08年より振付師として活動。AKB48の「ヘビーローテーション」をはじめ、数々の振付を手がけてきた。
text=小畠良一