1年前は、まだ21人いた。そんな感傷には、もう溺れまい。
彼女たちが世に出た4月6日は、理屈抜きに晴れがましい日なのだから。
欅坂46がデビューして3度目の春がやってきた。
前年のアニバーサリー・デーに思いをはせてから今日を迎えるまでの、この1年。グループを取り巻く環境も、彼女たち自身の状況も大きく変化した。3人の盟友たちとの別れがあり、新たな血肉となる2期生の加入があった。そして、今また長濱ねるの卒業という重要な局面に、彼女たちは立っている。これまでも〝クリフハンガー〟な展開は多々あったが、今回ほど青天の霹靂と言える状況はなかったと言えるだろう。正直なところ、長濱の去就について、詳しくを知りたいのが人情というものではあるけれども、下衆の勘ぐりという例えもある。ここはひとまずそっと見届けて、いつか昔話として語られる日がくるのを待とう。それが傍観者の流儀ゆえに。
何にしても分かっているのは、欅坂46は現在、間違いなく端境期にあるということだけだ。オリジナルメンバーの21人で紡ぎ上げてきたストーリーを第1章とするならば、さしづめ新章のプロローグ的な位置づけとでも言おうか。インターミッションでもインタールードでもない。物語は常に綴られ続けている。そう、かのフレディー・マーキュリーが命の燃え尽きる間際に、「The show must go on(意訳:それでも僕は立ち止まらない)」と歌いあげたように。
ここで、しばし時計の針を戻すとともに、時系列に沿って彼女たちの言葉からグループの歩みを検証してみよう。懐かしむのではなく、あくまで〝現在地〟への道すじを明確にするために。まずは、ちょうど1年前。2ndアニバーサリーライブを終えたばかりの齋藤冬優花が熱く語った、知られざる舞台裏のエピソードから。愚直なまでに表現に対して真摯な者たち同士のセッションから生まれたパフォーマンスが、脈々と1年越しの「今日」につながっていることが読みとれる。
齋藤「通しリハ前の段階ではまだフルパワーで踊っていなかったんですけど、TAKAHIRO先生からすると、その状態を見てもどこをどう直していいかが分からない、とおっしゃって……。『このままのレベルでいいのか、もっとクオリティーの高いものを届けたいのか、みなさんの気持ちはどっちですか?』と私たちに聞いてきたんです。TAKAHIRO先生という方は本当に優しいので、そういう厳しい言葉を言われるのが、すごく珍しくて。だからこそ、TAKAHIRO先生の本気には、私たちも本気で応えないといけないと気付くことができたんです。そこからもう1つスイッチが入った気がして、残りのリハーサルやゲネプロはメンバーがみんなさらに緊張感を持って臨むことができました。で、TAKAHIRO先生に喝を入れられた日というのが、菅井(友香)と守屋(茜)と長濱(ねる)が『坂道合同オーディション』のセミナーに参加した日だったんです。そのセミナーで流した映像をスタッフさんが私たちにも見せてくださって、友香たち3人も感じたことを話してくれて。それで『自分たちに憧れてオーディションを受けに来てくれる人たちがいるのだから気持ちを新たにしてがんばろう』って、みんなで話し合ったんですよ。残り数日間、どういう気持ちで練習に取り組むかも確認し合って。モードがさらに変わったのは、その時でした。ライブ後にTAKAHIRO先生と結構長時間お話させていただいたんですけど、先生も『あの日からラストスパートをかけたね』と、おっしゃっていました。それを聞いて号泣するっていう(笑)。先生や踊りを教えてくださるダンサーさんたちは、私たちがどんな状態であっても、真っ正面から向き合ってくださるので、感謝の気持ちを、号泣しながら伝えたんですね。そうしたら、『みんなが本気だからこそ、周りの人たちも一緒に歩んでくれるんだよ』と、また仏のようなことをおっしゃるんですよ。それを聞いてまた号泣するという……」。(B.L.T. ’18年6月号より抜粋)
2ndアニバーサリーライブを直接見ていないにしても、あの日、魂を込めてステージに立ったメンバーたちと送り出したスタッフ陣のスピリットを、きっと2期生の9人は受け止めているはず。その2期生たちが入ってきたばかりの頃、不安を少しでも和らげようと自発的に話しかけに行ったのが、尾関梨香。かつて、遅れて合流してきたばかりで気後れしていた長濱ねるに、「敬語禁止令」を出すとともに東京見物へ連れていって距離感を縮めた優しさの持ち主は、いつしか〝メンバー間のコネクト役〟を自覚するようになっていった。
「ツアーの時とか、みんなそれぞれ役割が自然と出てくるじゃないですか。冬優花とか鈴本(美愉)はパフォーマンス面で引っ張ってくれたから、そこは2人に任せよう、みたいに。じゃあ自分に何ができるんだろうと考えた時、誰かが困っていたり悩んでいたりしたら、話を聞いて共有することならできるかなって。で、宿で同じ部屋になった子とグループについて話したりしているうち、聞き役って結構楽しいなって思えるようになったんです。だから、やっぱりツアーでいろいろ経験できたのは自分にとって大きかったです。2ndアニバーサリーライブの時も、朝リハして本番までの空き時間でメンバーと語るのが楽しくて。その時間が好きなんです。実は、本当の意味でメンバーの前で素の自分を隠さなくなったのも、ツアーが境なんですよ。それまでは涙を見せたくないって思っていて。でも、最近は感情出しまくりです。やっと自分にも周りにも素直になれた気がする。前は家族以外の人に頼ることができなくて、何でも自分で解決しようとしていたんですけど、今は第三者の意見や話も素直に聞けるようになりました」。(blt graph. Vol.32より抜粋)
なお、尾関が名を挙げた鈴本美愉は美学とフィロソフィーをしっかりと持った、グループの根幹をなすメンバーの
1人だ。言葉少なではあるが、だからこそ芯をとらえた発言は力強く響き、説得力を感じさせる。7月に行われた野外ライブ「欅共和国2018」直後のロングインタビューにおける、「2期生となる子に何を望むか?」という問いに対する答えにも、思わず膝を打ったものだった。
鈴本「メンバー間でもその話をするんですよ。守屋(茜)とかと『どうなるんだろうね』って。もし入ってくるとして、どんな子が来るんだろう、とか。私は……ですけど、心のどこかに不満を持っている子が入ってきてくれたらいいな、と思っていて。欅のメッセージ性の強い楽曲を届けるには、どこか満たされてない、何かに疑問を抱いている子の方が、リアルな言葉として伝わるんじゃないかなって」。(blt graph. Vol.34より)
さらに、今後の展開例の1つとして、海外でライブ・パフォーマンスをしてみたくはないかと鈴本に聞いたところ、これまた「なるほど」と唸らされることになった。
鈴本「日本の若者は……自分自身も欅坂に入る前にも漠然とした不満があったし、同じ気持ちの子がたくさんいるっていうのは感じるんですけど、海外の子は社会に対して、大人に対してどう思っているんだろうって。何か海外の若い子たちって、すごく自由に生きているようなイメージがあったりもするんですよね。そういう環境で暮らしている子たちに、欅の楽曲は受け入れてもらえない気がする……。でも、大人の方々も欅の曲を聴いて、『自分たちにもこういう時期があったな』と思うこともあると思うし、その感覚と同じように、海外にも私たちの曲が響く感覚を持っている人たちがいるのなら、伝えに行ってみたいですね。ただ、さっきも言ったように言語の問題があって、ただ歌っているだけじゃ伝わるものも伝わらないというか……」。(同・抜粋)
このコメントだけでも、「アイドルとしてどう見られるか」ではなく「パフォーマンスを通して何が届けられるか」を重視していることが、わかってもらえると思う。欅坂46とは、そういうグループなのだ。だから、たった1曲のパフォーマンスにも全力を尽くす。たとえば、こんな具合に。
長濱ねる「(デビュー以来ずっと変わっていないことは)歌番組の本番直前に、本気で振り固めの仕上げをするところですね。メークも髪の毛もバッチリ仕上げてもらっているのに、みんなして20分間ぐらい本気で踊るんですよ(笑)。でも、いまだにそれを大事にしているのは誇れることだし、器用に本番を迎えられないところが、自分たちのことを言うのも何ですけど、愛おしいんです」。(B.L.T. ’19年2月号より抜粋)
一方、変化せざるを得ないところもある。本コラムの序盤でも触れたように今泉佑唯、志田愛佳、米谷奈々未の卒業と、2期生9人の加入という物理的な変動によるものだが、激動の2018年を振り返ったタイミングでの石森虹花の決意表明は、大いに頼もしさを感じさせた。
石森「私にとっての’18年は、グループというものを考えさせられた1年でした。すごく個性的なメンバーが集まったということもあって、2ndアニバーサリーライブや夏の全国ツアーを通じて、〝欅坂らしさ〟って何だろうって、ことあるごとに考えていた気がします。でも、それが何かはいまだにわからないんですよね。そんな中で結成からずっと一緒にやってきた今泉と愛佳、よねの卒業を迎えて、残った私たちはどうすればいいんだろうって、個人的に突き詰めた結果、シンプルだけど『欅でもっとがんばりたい!』という思いに至りました。何か、欅坂の歴史を1本の長い映画のように、私はとらえていて。まだまだ物語の途中だと思うし、エンディングはずっと先だって信じて、’19年もさらにグループのことを考えていきたいし、もっと結束するためにはどうすればいいか、自分なりの答えを探していきたいなって思います」。(B.L.T. ’19年2月号より)
また、メンバーたちがこぞって「すごく大人になった」と賞賛した上村莉菜も、その評価を裏付ける成長の一端をのぞかせてくれた。
上村「夏だけじゃなくて、何カ月もかけてツアーができたらなって思います。ずっとメンバーと一緒にいられるのが、私としてはうれしくて(笑)。まだ北海道とか四国でライブをしていないので、行ったことのないところへも行きたい。自分でも、こんなにライブが好きになるなんて思ってなかったんですよ。体力的に消耗して、『もうムリ』って一時的に思っても、また踊りたくなるんです。全然上手くならないし、相変わらず覚えるのも遅いから嫌になるけど、踊っていないと、ふと寂しくなって……。中毒性があるんです、ダンスとライブには。私は今のところ、個人で活動したい欲がなくて。むしろ、グループでいるからこそ感じられる達成感みたいなものを、’19年はもっと増やしていければいいなって、個人的には思っています」。(B.L.T. ’19年2月号より)
そういった状況の中、新たなる希望として迎え入れられた2期生たち。だが、当人たちが欅坂46のメンバーになった実感や自覚をおぼえるには、やはり一定の時間が必要だったようだ。井上梨名、武元唯衣、関有美子の3人は率直な心境を、次のように明かす。
井上「私は何か、ずっと夢から覚めてない感じが今もしています。最初は『夢みたいや』って、フワフワしていたんですけど、最近になって先輩方と一緒にレッスンを受けたり、番組の収録に参加したり、こうして雑誌の撮影に呼んでもらうようになって、『あぁ、本当に欅の一員になったんだな』って実感できるようになってきて。でも、夢みたいっていう気持ちも、まだあるんですよね」。
関「最初は、自分が好きだったグループに入ったという実感がなくて、フワフワした気持ちでした。『欅坂46の関有美子です』って言うことに違和感があったりもしたんですけど、お見立て会で『Oveture』が流れたり、パフォーマンスをするうち、『あ……私、欅坂46なんだ』って、実感したっていう感じです。ちょっと前に新曲の『黒い羊』のMVを観た時、あらためて『すごいグループに入ったんだなぁ』と感じて、胸がいっぱいになりました」。
武元「1期生のみなさんが築いてきた絆があって、そこに私たちが入っていっていいのかなって……みんなで集まって話したことがあります。実際、最初に先輩方と一緒にレッスンをした時は、感情がグチャグチャになって、終わった後はみんなで号泣しました。ずっと憧れていた人たちに囲まれて踊ってみて、『悪目立ちしないように』とか『迷惑をかけられない』っていう気持ちになって、『私がここに入ったらダメだ』っていう涙が止まらなかったんです」。
関「自分たち2期生がファンの方々にどう思われるのかなっていう怖さもあったんです。私も欅のファンだったから、複雑だったというか……。でも、お見立て会に1万人近くの方が来てくださって、自分たちもしっかりしないとダメだって、そこから意識が変わっていきました」。(以上、B.L.T.2019年4月号別冊付録② 欅坂46・2期生 PERFECT BOOK 欅図鑑より)
欅という名の坂は、スタート地点から平坦でも緩やかでもなく、急斜面だったり道が曲がっていたり、大きな壁が立ちふさがったり──と、登る者たちはもちろんだろうが、傍観者の心臓にも負担がかかるようなところがある。けれども、だからこそ目が離せなかったりもする。じゃなければ、とっくに見守るのをやめていただろう。
迎えた2019年4月6日、つまりは本日。
欅坂46にとって3回目のアニーバサリー・ライブは、終始セレブレートな雰囲気が漂い、多幸感に満ちたステージングが展開された。前回、前々回はそれぞれ1年間にリリースした楽曲に限定したセットリストだったが、今回は「サイレントマジョリティー」「世界には愛しかない」「二人セゾン」と、デビューから表題曲3連発で幕開け。卒業メンバーの空いたポジションには曲ごとに2期生が3人ずつ入り、従来のフォーメーションを見せつつ新たな可能性を感じさせるという、〝新章〟のスタートにふさわしいパフォーマンスを披露する。とりわけ、「二人セゾン」での山﨑天は髪を束ねていたこと、また平手友梨奈の隣のポジションに入ったこともあって、休業中の原田葵の姿をダブらせた人も少なくなかったのではないだろうか。いや、山﨑が原田の代わりを務めた、などと言うつもりはない。今日のステージを見ていて、やはり欅坂の楽曲を表現するにふさわしいメンバーたちが入ってきたのだなと、あらためて思った次第──というところだ。
なお、折りからのケガで昨年末から最新シングル「黒い羊」リリース直前まで活動をセーブしていた平手も、光の宿った瞳といいダンスのキレといい、完全復活を印象づけた。加えて、3月からしばらく体調不良で握手会や音楽番組などを休んでいた鈴本も持ち前のダイナミズムを発揮、表情も晴れやかにステージ映えするパフォーマンスを見せつける。もちろん、グループ全体としても久しぶりのフル・ライブにもかかわらず、一体感と完成度の高さでオーディエンスを魅了。どの楽曲も甲乙つけがたいが、特に「黒い羊」のc/wで裏拍のギターカッティングが印象的なレゲエ風ナンバー「Nobody」の妖艶な雰囲気は、3年分人生経験を重ねたからこそ生み出せるものであることを考えると、まさに〝今〟の欅を象徴している、と言えるだろう。さらに、本編ラストを飾った「アンビバレント」と「風に吹かれても」の2曲はともに難易度が高いにもかかわらず、前者では研ぎ澄まされたダンスを、後者ではファンキーかつグルーヴィーなパフォーマンスで、グループの進化を実証してみせた。
もう1つ、アンコールのMCにおいて長濱ねると2期生の田村保乃が見せたシークエンスに、メンバーたちの成長を垣間見た気がしている。ともに感極まって声を詰まらせるも、懸命に涙をこらえて最後まで話し終えたのだが、おそらく以前の彼女たちであれば、人目をはばからず泣きじゃくっていたことだろう。しかし、もはやキャリアも4年目(田村はまだ加入して半年にも満たないが)、涙を見せずにステージをやりきるのが当たり前のフェーズに入ったわけで、よくぞ踏ん張ったなと思う。もっとも、長濱はセンターとしてフィーチャーされた「危なっかしい計画」のパフォーマンス中、メンバーたちと顔を合わせるうちに思いが涙となって溢れ出てしまったようで、タオルマフラーで顔を覆っていた。おそらく、5月の日本武道館3デイズが長濱にとって最後のライブになるだろうことを考えると、残り少ない活動に涙腺が緩むのも仕方がないことかもしれないな、と少しだけ感傷的になってしまった。
その後の鳴りやまないダブルアンコールに応えて披露したのは、「W-KEYAKIZAKAの詩」。従来は欅とけやきのユニオンを高らかに歌ったナンバーだったが、今夜から新たな意味合いを持つ1曲になった。すなわち、1期と2期──2つの欅がともにつくりあげていく次なるグループ像の象徴たるアンセム。曲の1番ではステージの上下に分かれていた1期と2期が次第に混ざり合い、大サビを前にして27人が1つとなって大三角形をかたどった瞬間こそ、まさしく欅坂46の〝新章〟の始まりだったと思わずにはいられなかった。
1年前は21人いた。でも、今は27人いる。So,The show must go on──だから彼女たちは、まだまだ坂を登り続ける。
text=平田真人