僕が見たかった青空、ということ。〜リーダー塩釜菜那とセンター八木仁愛とともに振り返る「僕青祭2024」〜

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 開演1時間前。先ほどまで誰もいなかった客席に、自分の席を探すファンの姿が少しずつ見えはじめる。ステージにはもちろん、まだ誰も立っていない。照明の当てられていない薄暗いステージには、学校でよく見かける木材とパイプでできた机と椅子が、教室のように整然と並んでいた。生徒たちが登校する前の教室のように、ひっそりと静かに。その頃楽屋では、メンバーたちは食事をしたり、メイクや衣装を直したり、ダンスの確認をしたり、おしゃべりをしたり、思い思いに過ごしていた。

 ファンミーティングやイベントを除くと、僕が見たかった青空が全メンバー23人でライブを行ったのはこれまでに3回。いずれも「初ワンマン」「結成1周年記念」「デビュー1周年記念」とライブタイトルに前置きがあった。10月13日(日)に東京・昭和女子大学の人見記念講堂で行われた「僕青祭2024」は、初めてなんの前置きもないライブだった。よって、記念日をお祝いするものではなく、ライブそのものを楽しんでもらわなくてはならなかった。ここでどんなライブを見せるかが、今後の僕青のライブのあり方を占うものになるかもしれなかった。

 開演20分前。メンバー23人が楽屋前の廊下に集合した。円陣だ。リーダーの塩釜菜那がセットリストを見ながら、どのタイミングで衣装チェンジをし、どこで誰がMCをするなどのライブの流れを、順を追って確認していく。ひと通りのことを話し終え、メンバーに「何かありますか?」と塩釜が聞くと、次々に手が挙がった。西森杏弥が、ある言葉が次の曲への準備の合図であることに今一度注意を促したり、長谷川稀未が、アンコール後にステージからハケるスピードをみんな均等にしたいと希望を伝えたり、2人のほかにも何人ものメンバーが発言をした。その様子を見ていて、私は「あれ」と思った。

 約1カ月前、8月30日に東京・豊洲PITで行われたデビュー1周年記念ライブ「アオゾラサマーフェスティバル2024」で見た円陣の様子とは異なっていたからだ。塩釜の話の後に、補足をするメンバーはいたのだが、こんなに次々とメンバーから積極的に発言が出たわけではなかった。この1カ月の間に何かメンバーの意識が変わったのだろうか。それとも「アオゾラサマーフェスティバル2024」がたまたま発言するメンバーが少なかっただけなのだろうか。

 その答えは、円陣後のステージに隠されていた。そして、終演直後に行った塩釜と八木仁愛へのインタビューからも明らかになっていく。この記事では、ライブの模様を振り返るのはもちろん、バックステージやレッスン風景などさまざまな視点から「僕青祭2024」で起きていたことを、塩釜と八木のコメントとともに紹介し、僕が見たかった青空というグループの〝今〟に迫ってみた。

 「僕青祭」は秋の開催ということで〝文化祭〟がテーマ。机と椅子が整然と並ぶ教室に見立てたステージに、Overtureに乗ってメンバーがにぎやかに〝登校〟してきてライブがスタートした。1曲目の「好きになりなさい」は、机と椅子を使いながら、文化祭が始まる前の興奮と期待に我慢ができず、教室で生徒たちが大騒ぎしてしまうような楽しいパフォーマンスが繰り広げられた。机や椅子に立ったり座ったりするだけでなく、それらを移動もさせながらのパフォーマンスで、僕青が得意とする群舞に、小道具がプラスされて、今までのパフォーマンスにはない新たな見せ方が1曲目から披露された。

 メンバーがステージに〝登校〟してきて、ワイワイとみんながはしゃぐ中、チャイムが鳴ると着席し、1曲目が始まるという流れだったが、ちょっとしたアクシデントも実はあったりしたそうだ。

八木「でも、みんなの対応力が上がっていて、それにすぐ対応していたのが、すごいなって思いました」

 そうした対応力はこの1年と少しの活動から培われてきたのものでもあろうが、今回のライブに向けての練習でこそ、身に付けることができた面があったようだ。

塩釜「今回のライブは、机と椅子を使うとか、演出がいろいろあったんですけど、それとは逆に、決められてない自由なところも多かったんです。MCで話す内容もそうだし、『青空について考える』(3曲目)とか『飛ばなかった紙飛行機』(12曲目)とか、途中からそれぞれが自分で考えた振りをするようになっていたんです。これまでにも披露してきた曲だから、違うものを見せよう、表現の仕方はもっといろいろあるはずだってことで、ダンスの先生から『自由にするから自分の表現の仕方を考えてください』と言われて、一人ひとり考えたんです」。

八木「振りがフリーの部分って、私はその曲の歌詞や歌を噛みしめるのにもってこいだと思っていて。振付師さんがその曲の想いを汲んで作ってくれた振りはもちろん素敵なんですけど、歌を本気で伝えたい場合は、そもそもダンスはそんなにいらないかもなって思っていて。振付師さんも、そういう時は『ここは立ち止まってしっかり噛みしめて歌おう』って言って、フリーにしてくれることが多いんです。だから、歌でしっかり気持ちを伝えたい『マイフレンズ』(9曲目)なんかはダンスがなくて割と立ち止まっていることが多いんです。私も歌で伝えたい時はそのほうがいいかなと思っていて。でも、ただ立ち止まって歌うよりも、(感情を表すように)手の動きを付けたほうがいいと思うって、(柳堀)花怜が言ってくれたことがあったんです。花怜が歌唱指導の先生に、『本気で歌っている人は、ひじから下に手がない。自然と手が動いてくる』ってアドバイスをもらったらしくて、それを教えてくれたんです。だから、みんなで手を使って表現をしようってなったんです」。

 結成からの1年、ダンスにしても、歌にしても、あらゆる面で細かな指導を受けてきたであろう。メンバーはそれに食らいついてきたからこそ、僕青ならではの物語性のあるダンスと、青春のさまざまな場面を描く歌を、見応えあるものにしてきた。一方で、まだまだアイドルとしてのキャリアが浅い彼女たちは、決められたことをいかに遂行できるか、その忠実性を磨いてきただけとも言える。しかし、2年目に入ったこのライブで、彼女たちはグループ全体のこととしてそれぞれが〝自分で考えること〟に挑みはじめたのである。オープニングのアクシデントで見せた各自の対応力もそういう変化や成長の表れだったのだろう。

 「自分の表現の仕方」を自分で考えるということに加えて、「僕青祭」に向けて、もう一つ新しい挑戦をしていた。3曲目の「青空について考える」と4曲目「卒業まで」の間に企画パートがあった。文化祭がライブのテーマということで、部活動紹介さながらに、メンバー23人がフリースタイルバスケットボール部、ダンス部、マーチングバンド部という3つの部活に分かれて、パフォーマンスを披露したのだ。

塩釜「フリースタイルバスケットボールもマーチングバンドも誰も経験したことがないし、ダンス部のダンスも布や扇子を使ったパフォーマンスでいつものダンスとは全然違うものになっているから、チームごとに先生がついてレッスンをしていたんです。私はストリートバスケだったんですけど、ライブ楽曲のレッスンをしながら、部活動パートのレッスンもしていくって大変だったんですよ。しかも、レッスン期間は4日間(※ダンス部だけ3日間)っていう短い時間しかなくて。だから、1日1日を大事にしないとお客さんに見せられるパフォーマンスにはならないから、すごくみんな集中してがんばっていたと思います」

 各部活動のレッスンを1日だけ見学させてもらった。たった1日だけだったが、それぞれの部にドラマがあった。

 ダンス部のメンバーは金澤亜美、萩原心花、長谷川稀未、宮腰友里亜、持永真奈、八木仁愛、吉本此那。ダンスが得意なメンバーが揃う中、萩原と宮腰はダンスが苦手であることを以前から公言していた。その2人がダンス部に組み込まれているのは、〝青春〟をコンセプトにしている僕青らしさを感じる。ほかの5人は先生に指摘されたことにすぐ対応できていたが、萩原と宮腰は少し出遅れている感はあった。しかし、2人ともみんなについていこうとする意気込みを見ていて強く感じた。萩原は先生に積極的に質問しながら精度を上げていたし、宮腰は何度も何度も鏡に映る自分の振りを確認していた。宮腰に「大変では?」と聞くと、「ダンスが楽しい!」と笑顔で返答してきた。

 フリースタイルバスケットボール部のメンバーは青木宙帆、秋田莉杏、今井優希、岩本理瑚、塩釜菜那、杉浦英恋、西森杏弥、柳堀花怜。バスケットボールを持ちながらダンスをする部分もあるが、見どころは多彩なボールさばき。技術のいる技を短期間で習得しなければならず、特にクライマックスで披露する、一斉に上に投げたボールをそれぞれが背中でキャッチするパフォーマンスがなかなかうまくいかない。全員がキャッチできて成功なのだが、誰かしらが失敗してしまう。途中で先生がもっと簡単な技に変えようかと提案する。メンバーは沈黙してしまう(※私に聞こえなかっただけで誰かが言葉を発しっていたかもしれない)。その沈黙を「提案には同意しない」という意に先生は受け取って、そのままで行くことに。しかしやっぱり何度やっても、全員で成功することができない。レッスンの時間がもう終わり間近のタイミングだった。ボールを宙に投げると……全員が背中でボールをキャッチした。その瞬間、レッスン場にメンバーたちの大歓声が沸き起こった。

 マーチングバンド部のメンバーは、安納蒼衣、伊藤ゆず、木下藍、工藤唯愛、須永心海、早﨑すずき、八重樫美伊咲、山口結杏。安納、工藤、須永、早﨑、山口は楽器経験者で、中でも安納は吹奏楽部で打楽器を担当していたこともあり、さすがの腕前を見せ、ソロパートも担当。絶対音感の持ち主で「太鼓の達人」上級者の早﨑も上手で、安納と早﨑を基準のリズムにして、それにほかのメンバーは合わせていくようにと先生が指導するほどだった。さまざまな形に行進しながら、ドラムも叩いていかなければならないのだから、見ていてとても難しそうだった。1曲を通してパフォーマンスした後、全員が一列に並んで、先生の感想を待っていた。その表情と間から先生が納得していないことは明らかだった。すると、「もっと簡単なものにしたほうがいいのかな。どうする?」と口を開いた。ストリートバスケットボール部も同様のことを先生に言われていたが、それは「難しい技だから、もう少し簡単な技にしても問題ないよ」というような提案に思えたが、マーチングバンド部のそれは「これくらいできないと見応えがないよ」とメンバーのやる気を見定めようとしているような口ぶりだった。メンバーは黙ってしまう。ライブ当日に確実に仕上げていくために簡単なものに変更したほうがいいのか、ここで諦めずにがんばるべきなのか……。須永が沈黙を破った。「このままでいきます」と、真剣な表情で言い切った。ほかのメンバーと視線を交わし合うこともなく、恐らく自分で判断してそう言い切った。勇気がいることだっただろうし、その姿がとてもかっこよかった。

 さらに、それまで終始ピリッとした空気だったのを、須永が先生にプライベートな質問をしたことで笑いが起き、ガラリと明るい空気に変わった。先生とメンバーたちでおしゃべりが始まり、互いの距離が縮まっていく。すると、「みんながんばっているから」と先生がコインを使った手品を披露してくれることに。本番までに仕上げられるのかという緊張感もあっただろうから、誰もが笑顔など見せずレッスンを受けていたのだが、手品を見て目を丸くして驚くメンバーの顔は、自然とほぐれていった。そして、その後のパフォーマンスもみるみる良くなっていった。

塩釜「それぞれのグループが4日間、本当にがんばって練習したと思うんですけど、やっぱり足りないところもあったんです。だから、握手会の合間とか家とかで、みんな自主練したりしました。誰一人、諦めてしまう子はいなくて、ちゃんと全員が『しっかりやらないと、会場に来てくれた方たちに見せられるパフォーマンスにならない』っていうことを意識していたところが1年目とは違うなって思いました。いや、前はそうだったっていうわけじゃないんです。なんて言うんだろう……みんなが〝同じ目標に向かって同じ意識を持っていた〟かなって感じたんです。部活動に限らず、いいパフォーマンスを見せたいっていう気持ちがどんどんグループ全体から感じられていたし、このままライブ当日に挑みたいと思っていました」。

 「僕青祭」本番では、3つの部とも素晴らしい練習の成果を披露したと思う。2組目のダンス部がステージを終えると、みんなが次の衣装への着替えに向かう中、八木はステージ袖に用意してある水置き場に駆けつけ、机に上半身をもたれながら両肘をついて、ストローの刺さった自分のペットボトルの水を夢中で飲んでいた。緊張から解放され、渇いていた喉に初めて気が付いたように。グループ全体の中でも、このダンス部の中でも、群を抜くダンス力でパフォーマンスの中心を担う八木だけに、こちらが思っている以上のプレッシャーを感じながらパフォーマンスをしていたのだろう、と想像させた。

また、これは終演後の話になるが、観客のお見送りをしたのち、涙を浮かべながら西森が楽屋に戻ってきた。涙の理由は、フリースタイルバスケの先生に本番が今までで一番いいパフォーマンスだったと褒めてもらえたことで感極まったそうだ。西森の涙を初めて見た気がした。取材で座談会をしていて、メンバーみんなが涙する場面があっても、西森が涙を見せることはなかった。感情豊かな人ではあるから、人前で泣くことを良しとしていないのだろうと思っていた。そんな西森が目を赤くしていた。それだけこの部活動に気持ちを込めて取り組んでいたのだろうし、思い出深いレッスン期間だったに違いない。

 西森と同じフリースタイルバスケ部だった塩釜は本番をこう振り返る。

塩釜「ボールを背中で受け取る最後の決め技を、私、本番で失敗してしまったんです! もうチョー悔しくて〜。練習ではできたのに。でも、こういう悔しい思いをできたのがすごくいい経験だったなって。悔しさが出てくるのは、もっといいパフォーマンスを見せたかったっていう気持ちがあるからだし、この部活動の時間がすごく好きだったからだなって」

 「僕青祭」がこれまでライブと何より大きく違ったのは、楽曲の見せ方だった。過去3回のライブでは、いずれもストレートにパフォーマンスをしてきたが、1曲目の「好きになりなさい」しかり、「僕青祭」ではよりパフォーマンスを、より楽曲の魅力を引き出すような演出が加えられていた。

 部活動後の4曲目に披露された「卒業まで」は特にそうだった。暗転した会場の中、汽笛の音や波の音がして来る。同曲MVの舞台となった波止場の情景が想起される。舞台には紗幕(光が透ける薄い布)が降りていて、儚く可憐に踊る金澤亜美のシルエットだけが舞台右手側の紗幕に映し出された。続いて反対の左手側に吉本此那が舞い踊るシルエットが、右手側に杉浦英恋のシルエットが順に映し出される。それから、真っ暗な客席の中にスポットライトが当たると、そこに早﨑すずきが立っていた。「告白すれば変わるのですか?/片思いは行き止まり」と歌詞の一部を語りかけるように朗読する。今度は反対側の客席にスポットライトが当たり、そこに立っていた八木仁愛が「あなたと出会って/幸せでしたと/ちゃんと伝えたい──たった一度の叶わない恋」と気持ちを込めて朗読すると、切なげなイントロが流れ出す。まるで「叶わない恋」の物語がこれからこの舞台で始まることを告げるように。いや実際、歌詞に描かれた物語を歌とダンスでメンバーは表現していくのだ。早﨑だけ群舞に加わらず、舞台右手のへりに座りながら歌唱していたのも印象的だった。

 続く5曲目の雲組曲「涙を流そう」では、非選抜メンバーである雲組が抱える悔しさや意地を象徴するように、踊っているメンバーや立ち尽くすメンバーの間で、須永、岩本、杉浦が歌詞を順に朗読し、大海に舟が漕ぎ出すようなさまを群舞で作り出すパフォーマンスへと繋げていった。

 そうした演劇的な演出が、決して小手先の変化を狙ったものではなくて、僕青というグループの魅力を、あるいは特徴を分かりやすく伝えていたし、際立たせていたと思う。歌詞の情景を写し取ったような演劇的な振り付け、それを表現できるメンバーのパフォーマンス力、青春の情景と心理を時に爽やかに時に鋭く描く秋元康氏の歌詞という、僕青が持っている武器を存分に発揮していた。本編12曲、アンコール2曲のセットリストの中、「卒業まで」から始まる中盤の4曲目から7曲目まで、ファンのコールがない4曲を並べていたのも、そのためであったろう。パフォーマンスをしっかりと見せる、しっかりと曲を聴かせる。そして、それができるグループが僕青であることを大いに見せつけたブロックだった。

八木「パフォーマンスを披露するのに演出が加わったのは今回が初めてでした。このほうが見ている方も、曲の世界観に入っていきやすいし、きっと感動してもらえるんじゃないかなぁ。私自身もパフォーマンスしていてぐっと来るものがありました。私たちが届けたいものが、今まで以上によく伝わるようになるだろうから、今後もこういう取り組みはやっていけたらいいですよね。〝僕青の強み〟にしていけたらいいなって思います」

 「僕青祭」では、各メンバーに任せられた振りが決められていない自由な部分と、演出によってきっちりと振りが決められた部分という、言わば反対のことを新たな挑戦として23人は取り組んでいたことがここまでで分かった。その結果、それに取り組むレッスンの中で、各メンバーが自主性を持ち出すとともに、今までとは質の違うチームワーク、あるいは結束力も生まれていた。

塩釜「前回のライブ『アオゾラサマーフェスティバル2024』ではセットリストに入っていなかった曲があったり、初披露の曲も部活動パートもあったので、今回のレッスン期間で間に合うかなっていう心配があったんです。それに雲組メンバーは雲組単独公演も直前にあったので、レッスンではちょっと気持ちが違う方向を向いてしまっていたような気がします。でも、『僕青祭』は23人でライブをするわけだから、〝同じ目標に向かって、同じ心持ち〟でライブに挑まないといけない。23人全員で僕青としてやっていかないといけないので、当たり前だと思っている自分の基準を上げて、それぞれがやれることはしっかりやろう、そしたらもっともっと良くなるんじゃないかっていうことを、ライブのレッスンの時にみんなの前で話したこともありました」

 雲組は単独公演の練習もこなしながら、「僕青祭」の練習もし、自分で考えるという新たな課題にも向き合っていたから、より大変ではあっただろう。でも、メンバーに声をかけ続けた塩釜に応えるように、雲組も含め23人全員が〝同じ目標に向かって、同じ心持ちで〟練習をするようになっていく。

塩釜「23人でのレッスンが今回は多かったので、レッスン後に集まって『明日の朝、ここを改善するためにみんなでやってみよう』っていうことになったんです。それで翌日から、レッスン前の30分のストレッチ時間の半分を、みんなで昨日やったところを振り返る時間にしたんです。その時間はまだ先生方がいないから、私が進めることになるんですけど、みんな時間通りに集まってくれて、明るく積極的に取り組んでくれたんです。メンバーだけでもできることが増えたなって思えて、うれしかったですね。『ここはこうしよう』とか『もう1回やらせてほしい』とか提案や意見もたくさん出てきて。僕青のために一人ひとりが動いているっていうのをすごく感じられて、心強かったし、良かったなって思いました」

八木「ライブのレッスン期間を通して、自主性が出てきました。『もっとここはこうしてみようよ』『こうしたらいいんじゃない?』っていうようなことを、みんなでちゃんと言えるようになってきたなって思って。それこそ、今日の円陣の時もそうで。前まではリーダーの菜那ちゃんがまとめてここはこうしようって言ってくれていたんですけど、菜那ちゃんの話の後に、みんな自分の意見を付け足すようになってきて。『MCは私、ここをこうするから、こんな風にリアクションしてほしい』とか『ここはこうだよね』って。そういうことが、誰に言われなくとも自主的にできるようになったんだなって感じましたね」

 円陣を見た時に「あれ」と感じたものの理由はそういうことだったのだ。「アオゾラサマーフェスティバル2024」の開催から1カ月と少しという短い時間で、僕青は内側から変化していたのだ。そしてそれがパフォーマンスに影響してこないわけがない。一人のアイドルとして自立することを求められ、一人ひとりが自立して意識が高まれば、それはより強いグループの結束力にも結びつくだろう。

 8曲目に4thシングル「好きすぎてUp and down」が青空組によって、9曲目にカップリングの「マイフレンズ」が全メンバーで初披露された。「マイフレンズ」は、柳堀の初センター曲。23人全員でパフォーマンスする曲としては八木、早﨑、吉本に続く4人目となる。どこか陰のある八木とも、まぶしい光をまとう早﨑とも、クールなかっこよさのある吉本とも違う、柳堀ならではのセンター像を見せてくれていたと思う。実直さを感じさせるようなその真っすぐな歌声が以前から印象的だったし、親しみやすさというか、温かさというか、光も陰も包み込む大らかさのある彼女に、仲間への思いを歌う同曲はぴったりだ。また、2組に分かれて踊り、サビで「ベストフレンド/ベストフレンド」と掛け合いながら歌うところは、僕青らしい演劇的なパフォーマンスをさらに際立たせていて、とても見応えがあった。

 10曲目は3rdシングル「スペアのない恋」を当時の青空組が、11曲目は2ndシングル「卒業まで」に収録された雲組曲「君のための歌」を当時の雲組が披露した。どちらの曲にも参加していたのは秋田、一人だけだ。初めて選抜制が導入された2ndで雲組のセンターとなり、3rdで青空組入りを果たした。しかし、4th(「好きすぎてUp and down」)では再び雲組に戻ることに。きっといろいろな思いが彼女の胸の中にはあるのだろうが、「スペアのない恋」を踊る姿は楽しそうだし、「君のための歌」でセンターに立つ秋田の姿はそのキレのあるダンスとともに凛々しくかっこよかった。

 秋田とは逆に、2ndは青空組で、3rdは雲組になった宮腰は、どちらの曲にも参加していないが、ステージ袖で2曲のパフォーマンスをずっと見ながら一緒に踊っていた。後ろ姿しか私からは見ることができないから、どんな表情をしていたのかは分からない。宮腰も秋田同様に選抜制の厳しさに直面しながら、思い悩むこともあっただろう。しかし、ステージにいるメンバーに合わせて一人、踊っている後ろ姿を見ていると、部活動の練習で苦手なダンスを「楽しい!」と言っていたこととリンクして、前向きな清々しさを感じた。

塩釜「今回の『僕青祭』は、今まで私たちがやってきたことよりもレベルの高いことに挑戦してきたかなと思うんです。演出があったり、自分たちで振りを考える部分があったり。そこにメンバーみんなで向き合って、どうにかしようってそれぞれが考えるようにもなって、個人の意識も上がったし、グループとしての絆も深まった気がします。だからこそ、一人ひとりがもっとできたはずだっていう悔しさも感じていると思うんです。でも、そこでネガティブにならない強さも、お互いを支え合う優しさも、全員が以前よりも持てるようになってきたんじゃないかなぁ。なんか、『これが僕青だぞ!』っていう良さが出てきたというか、見つけられたというか。この『僕青祭』を通して、そういう感じがするんです。今まではただ仲が良いだけだったけど、仕事仲間としての、アイドルとしての、そういう仲の良さも出てきたなって思います」

 本編のラスト12曲目は「飛ばなかった紙飛行機」だった。「僕青祭」を通してグループにどんな挑戦と変化があったのかを振り返ってみると、ラストに相応しい選曲だった気がする。アンコールで「暗闇の哲学者」と「空色の水しぶき」という八木と早﨑のセンター曲がそれぞれ披露されたが、それは文字通りアンコールに応える楽曲で、「僕青祭」というライブのストーリーはこの「飛ばなかった紙飛行機」で完結していたと思う。歌詞がまるで「僕青祭」に向けて駆け抜けてきた彼女たちのことを表しているように感じるし、塩釜が言っていた『これが僕青だぞ!』というものを象徴しているようにも思えたからだ。サビはこう歌われる──。

「僕の紙飛行機/飛ばなかった/目的地に辿り着けず/風の中を失速して/墜落したよ/何がいけなかったのか?/考えてもわからない/大事なのは飛ぼうとしたこと/次に生かそう」

 AKB48の2015年リリースの「365日の紙飛行機」では「人生は紙飛行機/願い乗せて飛んでいくよ/風の中を力の限り/ただ進むだけ」と歌われている。「風の中を力の限り/ただ進むだけ」というのが、当時のAKB48のイメージそのままではないか。それに対して僕青は「風の中を失速して/墜落したよ」と歌う。ともに作詞は秋元康氏だが、プロデューサーでもある彼はそれぞれのグループの個性を当然意識して書き分けているであろう。では、僕青の個性とは?

 それは「僕青祭」に詰まっていただろうと思う。「墜落」することもあるが、「大事なのは飛ぼうとしたこと」。挑戦するから失敗もあるし成功もある。挑戦しなければ失敗もないが、成功もない。それを彼女たちは今、体現している。つまり、僕が見たかった青空とは──。

 「僕青祭」を終えての感想を、リーダーの塩釜はこう答えた。

塩釜「悔しさも楽しさも、すべてが青春だなって思いました」

【僕青祭2024 セットリスト】

  1. 好きになりなさい
  2. 友よ ここでサヨナラだ
  3. 青空について考える
    -部活動
    -MC
  4. 卒業まで
  5. 涙を流そう
  6. 微かな希望
  7. あの日僕たちは泣いていた
    -MC
  8. 好きすぎてUp and down
  9. マイフレンズ
    -MC
  10. スペアのない恋
  11. 君のための歌
  12. 飛ばなかった紙飛行機

<アンコール>
暗闇の哲学者
空色の水しぶき

写真/田中健児、編集部(レッスン風景)
取材・文/小畠良一

⚫️PROFILE


乃木坂46の“公式ライバル”として誕生。全国オーディションで応募総数3万5678人の中から選ばれた23人で結成され、’23年8月30日に「青空について考える」でメジャーデビューした。11/13(水)に4thシングル「好きすぎてUp and down」を発売するほか、12/28(土)にファンミーティングを、12/29(日)に2024年ラストライブを東京・YAMANO HALL(東京・代々木)にて開催予定。

発売中の、「B.L.T.12月号」では、4thシングル「好きすぎてUp and down」のMV撮影に密着し、4作連続で青空組のセンターを務める八木をはじめ、青空組の奮闘に密着。また、「blt graph.vol.106」には八木がソログラビアで登場。ロングインタビューも必読。ポストカード特典付きも。

僕が見たかった青空公式WEBサイト:https://bokuao.com/
公式X:@BOKUAOofficial
公式Instagram:@bokuao_official
公式YouTube:https://www.youtube.com/@BOKUAO_official

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次ページでは、練習から本番当日までの写真を大ボリュームでお届け!

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