旅に行かなきゃ。
“行きたい”ではなく、“行かなきゃ”、と強く思う今日この頃です。
きっかけは些細なことの積み重ねで。
昔大好きだった小説「西の魔女が死んだ」を何年かぶりに読んだら、その文章からイメージしていた祖母の家の情景が、昔より貧相になっていたこと。
人の意見を気にしすぎて、自分の考えが言葉にできず、関わりが疎かになってしまったこと。
些細なことで、悲しくなったり、イライラしてしまうこと。
それから、ここ1ヶ月分の携帯のカメラロールに、自分や街の景色、人が極端に減ってしまったこと。
この「葵色日記」を読み返した時、そう思って「旅に行かなきゃ」につながりました。
葵色日記にいた私は、秋田にいたり、広島にいたり。
春には友人と街を散歩して、夏はビールを片手に海へ。
秋は雨の音と喫茶店を楽しんで、紫陽花を見に行き、冬は秋田の雪と、その土地の味や温泉を堪能し、周りの人々の優しさに温まっている。
そこにいた私はそんなふうに時間を過ごし、今の自分を確認していた。
見慣れない景色に触れていた時間を、今は全く作れていないことに気付く。
ここ最近は自分のテリトリーの中、安心できる場所にいるばかりで、そこで自分が、なんとゆうか……固く小さくなっている感じがしてしまう。
いつかの連載に書いていた、「一人の時間は自分らしさを濃くしてくれるけど、しばらく続くと逆に自分らしさが薄まっていく感覚になる」と言う言葉に目が止まる。
今の私はどうだろう。
なんだか自分の輪郭がぼやけているよう。
ふと、前に同業の友人と、風はないけど冷え切っている東京の夜を散歩しながら話していたことを思い出した。
友人は、自分の今の状況に不満を抱き、何を努力したらいいのか分からない、というようなことを話していた。
「未来の自分に期待しすぎて、今の自分を見れていないんじゃないかね」
ぽろっと言った言葉に、沈黙が流れる。
手持ち無沙汰でキンキンのビールを一口飲んで、私は、今自分が言った言葉にトゲがなかったか確認する。
その言葉は自分にも突き刺さっていた。
その後、友人は笑いながら「旅に行きたいねぇ」と言っていた。
少しホッとして私は「そんなお金ないよ〜」と返して、また話し出したんだっけ。
すっかり忘れていた。
その時のトゲが、いまだに残っている。
あの子とどこか、知らない街に行こう。
ここまで書いて、コーヒーをおかわりしようと椅子から降りると、私の足もとにころっとうんち。
少し離れたところにいる愛犬を見ると、目が合ったまま大あくびときた。
思わず笑ってしまう。
こんにゃろ〜め。
いつかはいつか。今は今。
ダメでもともと。
そんなことを鼻歌に乗せながら、せっせと愛犬のそれをトイレに流す。
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「夜空の下で」著者／益田ミリ
葵うたの aoi utano
’99・7・4埼玉県出身。蟹座。B型。
俳優・タレント。ドラマ「ガールガンレディ」、「パリピ孔明」などの出演経験があり、アニメ「Artiswitch」では主人公の声優を担当。blt graph.vol.96に水着グラビアで登場。ポストカード付きはこちら。最近では「AEON トップバリュ」のTVCMに出演。
