葵うたのweb連載【葵色日記】#7 本と支払書

最近涼しくなってきたから、この床のひんやりを楽しめるうちに味わっておかなきゃと思いフローリングに寝転ぶ深夜。

身体の痺れを感じて寝返りを打つと、無造作に積み重なった本が視界に入る。
その中からなんとなく一冊とってパラパラ捲ると、なんと2カ月前の光熱費の支払書が。
本来そこにあるはずのないものが出てきたので、一度思考が停止する。

もしや私は支払書を“しおり”代わりにしていたのか……。
こんな時、いつも逃げ出したくなる。
お金からというよりも、その自分の怠惰ゆえのツケがまわった現実から。

保健室。中学生だった私にとってそこは公認の逃げ場所だった。
特にいじめられていたわけではなかったのだが、教室にいるとよく体調を崩していた。
真っ白のベッドと風に揺れるカーテン、遠くで聞こえる体育の授業の音が心地良かった。

それに、保健室の先生が好きだった。
先生は明るくてカラッとしていて、冗談を言いながらもいつもベッドで寝かしてくれていた。
先生はきっと私の仮病も気付いていた。

本当のところ、私は極度のめんどくさがり屋で、たまに勉強が好きな時期もあったが、その波はすぐ去って、保健室に逃げ込んでいた。
みんなががんばっていることが、私はがんばれない。
唯一の居場所だったそこも、気づけばヤンチャの溜まり場になって近付くことはなくなっていった。

先生とはよく話していたが、いくら思い出そうとしても、どんな声だったかすら思い出せない。
良くしてくれていたのに薄情な生徒だ。

特にあの頃、世界は自分中心で回っている感覚だったけど、そこには少なからず誰かがいてくれていたし、今も変わらず誰かに頼って生きている。

あの保健の先生だって、自分で働いて、稼いで、きっと支払書は本に挟まずに光熱費を払っていただろう。
でもきっと、たくさん悩みもあったように思う。

もうしっかり自立しなければ。
部屋着のまま、財布と見つけた支払書を握りしめてコンビニへ行く。
小さいけど、生きていく上での務めはしなければ。
もう今の私に保健室はないから。

「これお願いします」と勢いよく出した支払書は住所を切り取るのを忘れていた。
そして、すでに支払い期限は過ぎていた。

【毎連載恒例のオススメの一冊】

おあげさん  著者/平松洋子

#8は10月17日(月)の公開予定です。

●PROFILE
葵うたの aoi utano
’99・7・4埼玉県出身。蟹座。B型。
俳優・タレント。ドラマ「ガールガンレディ」などの出演経験があり、アニメ「Artiswitch」では主人公の声優を担当。「ぼなぺてぃ。~召し上がれ!秋田のおかしたち~」(秋田放送)が放送中で、公開中の映画「わかりません」では宣伝イラストを担当。10月19日(水)から放送の水ドラ25「キス×kiss×キス〜メルティングナイト〜」(テレビ東京)への出演が決まっている。

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