勝負の3作目。刹那にきらめく季節を生きる欅坂46ならではの叙情性が染みる。

まず、あらためて欅坂46の「第67回NHK紅白歌合戦」初出場を、心から祝福したい。まさに全速力で1つめの坂道を駆け上った2016年。その大みそかにアーティストであれば誰もが夢見る〝頂上〟へ立つという、これ以上ないかたちでの締めくくり。これを快挙と言わずして何と言おうか。

 

「早すぎるのでは」と見る向きもある。「順調すぎる」「恵まれすぎ」といった声も聞くが、それを一番骨身に染みてわかっているのは、ほかでもない欅坂46のメンバーたちだ。予想外のスタートダッシュを切ったことで、はからずもデビュー時に印象づけられたイメージと戦い続けていくことを宿命づけられた時点から、すでに。

 

デビュー曲「サイレントマジョリティー」のインパクトは、欅坂46というグループの存在感を強めた一方で、鮮烈すぎるがゆえにイメージを固定化しかねない、という側面も生んだ。名刺がわりの1曲を早々に得たかわりに、メッセージ性の強い楽曲をメンバー全員の一体感によってダイナミックにダンスで表現する〝サイマジョ路線〟をどのように洗練させていくのか(あるいは、どう裏切っていくのか)、グループの次なる展開への期待値が否応なしに上がってしまったわけだ。

 

だが、かつて似たような状況にありながら、新境地を開くことで大きく飛躍したグループの先例がある。今なおトップランナーとして日本のポップス界をけん引している、サザンオールスターズだ。彼らにも、デビュー曲「勝手にシンドバッド」のイメージが独り歩きしてしまい、その脱却に苦悶した時期があった。新たな魅力を開花させることに成功したのは、今やスタンダードナンバーとなったサードシングル「いとしのエリー」を世に出したことによる。桑田佳祐のメロディーメーカーとしての能力と、音楽性の幅広さを一躍知らしめ、「サザンはノリだけじゃなく、バラードを聴かせるバンドでもある」と認識されるにいたった。以後の活躍については説明するまでもないだろう。

 

話を欅坂46に戻すと、彼女たちのサードシングルも、前2作とは趣向の大きく異なる楽曲が表題となった。刹那にきらめく季節=二度と戻らない時間の美しさを切々と歌い上げた叙情的なナンバー、「二人セゾン」。フロントメンバーとフォーメーションを一新し、クラシックバレエに着想を得た手足のしなやかな動きや、微細な表情の変化をパフォーマンスに採りいれた意欲作、いや勝負作と言ってもいいくらい、新機軸を打ち出している。イントロなしでサビから入る、しかもタイトルを二度繰り返してから情景と心情の描写に移っていく構成をはじめ、詞と曲の面でも、これまでにない要素が数多く折り込まれた。たとえば、「サイレントマジョリティー」と「世界には愛しかない」が平手友梨奈の低音ボイスを際立たせる音域だったのに対し、「二人セゾン」ではファルセット(裏声)に近い高さにまでキーが上げられている。加えて、前2作で効果的に使われていた転調を、本作では封印しているのも特徴。何より、耳馴染みのいいキャッチーなメロディーと、ストリングスによって醸し出される緩やかなグルーヴが、何ともせつない余韻を胸の中に響かせる。聴くたびに詞とメロディーが染みて、そのつど目に涙をためている人は少なくないはずだ。

 

何にしても、衝撃のデビューから8カ月あまり、没個性からの脱却を高らかに歌うことでグループアイドルの概念を打ち破った欅坂46は、3作目にして「人生とは、季節のように出会いと別れが交互にめぐる時間」という普遍的なテーマに挑み、新たな地平を切り拓いた。控えめに言っても、1つのイメージにとらわれず、楽曲とパフォーマンスの幅を大きく広げたことで、次なるフェイズに達したのは紛れもないだろう。一応断っておくと、彼女たちが特別だなんて言うつもりはない。が、しかし(しかも極めて)非凡なグループだということは、声を大にして主張しておきたい。

 

ここで、ひとつ余談を。

11月24日に発売されたB.L.T.本誌’17年1月号では、今作のフロントメンバー7人にサンタクロースの格好をしてもらって海岸ロケに連れ出しているが、目の前に広がる海を見てテンションを高めた彼女たちの誰からともなく「ねえ、『二人セゾン』のヒット祈願しようよ!」という声が上がった。せっかくなので敢行してもらったのだが、打ち寄せる波の音に負けないように、「せ〜の、『二人セゾン』が大ヒットしますように〜っ!」と叫ぶ7人の姿が何とも純粋で……それでいて切実な感じも伝わってきて、いつにも増して愛おしさを感じずにはいられなかった。きっと何年か経った時、あの日の彼女たちは〝思い出という名のカレンダー〟になるのだろう。そう思うと、妙にせつなくなってしまった。

 

個人的な感傷はさておき、六本木ブルーシアターでの「新春おもてなし会」に始まり、オープニングアクトを務めた代々木第一体育館での「LIVE EXPO TOKYO 2016 ALL LIVE NIPPON」、デビューに向けてのレコード店めぐり、初めての選抜発表、初のMV撮影に待望のデビュー、ドラマ撮影に向けたワークショップ、2カ月強におよぶドラマ撮影に数々の夏フェス、イベント……この1年の間、彼女たちは通常の3倍ぐらいのスピード感と密度で課題に取り組み、そのたび壁に直面してきた。怖じ気づいたり、時には涙も流した。あるいは、メンバーのみが知るグループの危機もあったかもしれない。でも、そのたび謙虚に足元を見つめ直し、互いを思いやる優しさで絆を深め、そして輝きを増してきた。

 

だから、けっして「順調すぎる」ということはないし、「早すぎる」とも思わない。

欅坂46が成長線を描く過程を傍から見てきた者の、偽らざる気持ちである。

 

 

text=平田真人

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