葵うたのweb連載【葵色日記】#54 夜明け前のルーティン

午前4時。玄関のドアを開けると、つんと澄んだ空気が顔を刺す。
身震いをする程の、この空気が私は好き。

ふと空を見上げると「あっ、」と声が白い息と共に漏れる。
暗く広い空に、無数の星が鮮明に煌めいている。

そういえばここのところ、まだ真っ暗な、夜明け前の星ばかりを、見上げている。

お仕事のある日の、私の朝は早い。
生活拠点が都心部から離れていることと、この浮腫みやすい体質のおかげで、大体朝の3時には起床している。

まだ外は真っ暗な頃、枕元で鳴り始めるアラームを急いで止める。
普段ボケーっとしている私も、この時ばかりは真顔で俊敏。
隣の家にはまだ幼い子どもが二人いるので、起こしたくないのだ。

アラームさえ止めてしまえばここからは穏やかモード。直ぐには起き上がらない。
仰向けのまま、両腕を天井に向かってゆっくりと上げて、ぶらぶら〜と上下左右に揺らす。それが出来たらパーツを足に変えて、また同じように動かす。
これは、低血圧で早起きだった祖母の習慣。
よく泊まりに行っていた幼少期、隣で朝早く起きる祖母の様子を、寝ぼけた頭で不思議に思っていた。
祖母は朝1番に起きて朝食の準備をして、祖父を起こし、食事が済めばそのまま家族経営しているレストランのランチの仕込みに出かけていた。 
最近はあまり会えていないけど、記憶にある祖母の姿はいつも動き回っている。
この朝の体操をすると、私の背筋もシャンと伸びる気がしている。

体操を済ませ、熱いシャワーで身体を起こし、顔のマッサージをして、コーヒーを淹れ、それをゆっくりと飲む。
出来ればこのルーティンは変えたくない。

私は昔からあがり症な所があったり、要領が悪かったり空回りしがちで、どんな時でもベースの心の調子をできるだけ整えていられるように、こうしたルーティンを作っている。
小さな事だけど、私にとっては大きい。

焦るのが、一番よくない。いつもと同じ。ぐらいが丁度いい。
星空から目線を下げると、建物や木の輪郭が、朝焼け前に闇のグラデーションを持って浮き出ている。鳥も、街も、人も、まだ眠っている。
誰も通らない交差点で、赤。青。と規則正しく移り変わる信号。
この時期の夜は長い。でもじきに朝が来る。
私も世界のいろんなルーティンの中にいるのだなとふと思ったり。
行ってきます。

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BACON ICE CREAM / Yoshiyuki Okuyama

葵うたの aoi utano
’99・7・4埼玉県出身。蟹座。B型。
俳優・タレント。ドラマ「ガールガンレディ」、「パリピ孔明」などの出演経験があり、アニメ「Artiswitch」では主人公の声優を担当。主演の星野可子役を演じた長編映画「タイムマシンガール」の公開日が決定。池袋シネマ・ロサにて2025年1月25日(土)から、宇都宮ヒカリ座にて2月7日(金)より公開する。また、山田彩花役を演じたドラマ「さっちゃん、僕は。」がNetflixにて配信中。

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