今年のTIF2022メインステージ争奪LIVEで優勝を遂げたグループ「タイトル未定」。彼女たちの優勝の要因を探るべく、拠点の北海道で密着取材を敢行。メンバー4人とプロデューサーの言葉からタイトル未定の強さを紐解いていくーー。B.L.T.11月号(9月24日発売)に掲載した内容を特別に公開!
TIF2022メインステージ争奪LIVEで優勝したのが「タイトル未定」というグループだ。結成2年半。北海道からやってきた4人の少女。地理的ハンディを抱えながらも、大仕事をやってのけた要因は何なのか。その秘密を探るべくTIFから約1カ月経った9月頭に北海道へ飛んだ。
季節はまだ夏だというのに少し肌寒くて半袖を選んだことを後悔する。自然と鳥肌が立ってしまうほど。取材の待ち合わせは毎週木曜に開催しているライブ前。お昼過ぎの札幌市内のカフェ。時間通りにやってきた4人のメンバーは水色とピンクを基調にした衣装をまとっている。ライブ前の取材ということで時間がないと分かっていても、平日の昼間といっても、衣装で待ち合わせ場所に来てもらったのには申し訳なさが残る。ただ、何ひとつ嫌な顔を見せなかったのは取材側からすれば嬉しい限り。簡単に挨拶をして話を聞いていく。
初期メンバーでグループのお姉さん的存在の阿部葉菜は落ち着いた佇まいで、同じく結成当初から在籍する冨樫優花は言葉を慎重に選びながら、芸能活動の長い谷乃愛は堂々と、末っ子キャラの川本空はおっとりとした口調で――。それぞれの表現でタイトル未定について言葉を紡いでいく。
――◆――◆――――◆――◆――――◆――◆――
時はさかのぼって’20年4月11日。26時のマスカレイドのプロデューサーを務めたことのある松井広大が「20代前半の時のワクワクした気持ちや、辛かったこと苦しかったことを代弁できるようなアイドルグループを作りたかった」とタイトル未定の活動をスタートさせる。初期メンバーは阿部、冨樫、七瀬のぞみ(’22年8月卒業)、見上佳奈(’21年12月卒業)。まず気になるのはタイトル未定というグループ名。プロデューサーの松井はこう語る。
「若い子は日常会話の中で、何者かであることを求められるシーンが多いと思っていて。それが窮屈で。肩書きで会話しているというか、そう感じている人って結構いるのではと。何者かになろうとしなくていい何者でもない今を大切に、というコンセプトです」。
阿部と冨樫がタイトル未定に加入した経緯はこうだ。
「埼玉県出身で、もともと東京でアイドルをしていましたが、うまくいかなくなり……。それからいろいろオーディションを受けましたが、なかなか通らず。そこで、もともと知り合いだった松井さんに声を掛けてもらいました。北海道なので迷いましたが、気付いたら引っ越していて(笑)」(阿部)。
「小学5年生くらいからアイドルになりたかったんです。高校ではダンスサークルとチアガール部に所属していました。ただ、なかなかきっかけがなくて。それが札幌でアルバイトの面接に行った時に、たまたま松井さんがカフェの雇われ店長をしていて、その時に誘っていただきました」(冨樫)。
思い返せば’20年はコロナが流行っていた頃で、特に北海道は顕著だった。2月28日から3月18日まで道独自の緊急事態宣言が、4月17日から5月25日までは国の緊急事態宣言が発出。その間、外出自粛、札幌市との往来自粛、催物の開催自粛などが要請された。埼玉出身の阿部にとっては「少しタイミングが遅れていたら、北海道に行けなかった」ほどの状況だった。
そんな中、5月16日に開催されることになったデビューライブ。もちろんネット、YouTube上でお披露目となった。当時は「やったこともなかったですし、想像できなかった」(冨樫)、「カメラに対して歌った経験なんてない」(阿部)とメンバーは不安を募らせた。ましてやデビューライブだ。
だが、メンバーは今できることを必死にやった。レッスンではスタッフの持ったiPhoneを配信用のカメラに見立て、レンズに向かってレスや目線を送る。阿部に言わせれば、それは「普通のレッスンとは違う。特に端にいる時にどこを見ていいか分からなかった」と回顧する。しかし、必ずためになる、とレッスンを繰り返した。
迎えたデビューライブ当日。画面越しでも伝わるくらい大きな緊張を抱えていた。しかし、曲が始まると表情は一変。もともとアイドルをしていて表現力のある阿部や、抜群の歌唱力を誇る冨樫がグループを引っ張った。それはデビューライブとは思えないほどの圧倒的なパフォーマンスだった。結成わずか1カ月の地方アイドルにして同時視聴者数は300人を超えていた。
同年の12月30日。新メンバー、谷の加入が発表される。
「芸能は小学5年生から、アイドルは中学3年生から活動していたんです。そのグループが現体制終了になって。何もしていない時期に、プロデューサーに声を掛けてもらいました」(谷)。
翌’21年2月11日に新体制デビューライブを開催すると、4月16日にオフィシャルサイトを開設。5月15日から東京、名古屋、札幌での1st全国ツアーをスタートさせた。
「(谷は)一番しっかりしています。芸歴が長くて、アイドルとして尊敬する部分がいっぱいあって。グループに勢いを与えてくれました」(冨樫)。
谷という新しい風を入れ、確実にチーム力は向上した。ただ、忘れてはいけないのが北海道が拠点ということ。
道外のライブは基本的に飛行機移動だ。阿部は「グループに入る前は人生で2回しか(飛行機に)乗ったことがなかったので、緊張しましたね(笑)」という。谷は「札幌から電車で数時間くらいかかる場所に住んでいるので、まず空港までたどり着くのが大変ですね(笑)」と気丈に振舞うが、体力的にしんどいのは確かだろう。
空の旅にアクシデントは付き物。例えば、沖縄で3日間開催のライブに参加する予定だった時のこと。初日が夕方のみの出番で、当日朝に札幌から沖縄に行くスケジュールだった。だが、台風の影響で唯一の直行便が飛ばなかった。その日中の到着が難しくなり、翌朝に成田経由で沖縄に向かった。それでもメンバーに共通していたのは苦ではないということ。口を揃えて遠征は「楽しみ」だという。
「刺激的なことばかりだし、もともと東京に憧れもあったので」(冨樫)。
とはいえ、自分たち主催のライブや小規模でのライブでパフォーマンスをできても、大きな夏フェスには参加できなかった。地方グループといえども、自分たちの力不足を痛感した。翌’22年2月に東京で、3月に札幌でワンマンライブを成功させ、4月に新たな仲間が増えることに。グループ最年少の川本の加入が発表された。
「友達に誘われてオーディションを受けたのがきっかけなんです。一緒に合格できて友達は別のグループで活動しています。実はその友達と(’22年)2月にタイトル未定のライブに行ったんです。メジャーアイドルと同じくらいのパフォーマンスをしていてビックリしました」(川本)。
こうして谷が加入した時と同様にグループはさらに勢いを増していく。
「声が可愛くて、楽屋で私たちを和ませてくれる。いるだけで空気が和むんです。空ちゃんが加入してからグループの空気が柔らかくなったと思います。ステージ上はもちろん、楽屋などでも一緒にいて楽しいですね」(谷)。
TIF出場へ向けて準備が整った。6月18日、「TIF2022メインステージ争奪LIVE〜前哨戦〜」で2部の2位になり、決勝戦へ進出。決勝戦が開催されたのは8月5日。
「緊張と不安でいっぱいでした。でも、楽しかったことは覚えています。お客さんがいっぱい来てくださって大きいステージでパフォーマンスできたので、すごく楽しかった」(川本)。
パフォーマンスは圧巻だった。表現力、歌唱力、ダンス。どれもがハイレベルだった。誰か一人でも欠けていたら、優勝はなし得なかったはずだ。メンバーはそれぞれこう話す。
「(優勝は)積み重ねでしかない。運も良かった。運とタイミングが合った瞬間が今だったかなと。メンバーの気持ち、スタッフの熱量、ファンとの関わりなど2年半の集大成です」(阿部)。
「長いようで短かったです。去年、TIFに出られなくて悔しさがあって。ここまで一歩一歩進んできたから、優勝できたのかなと。一番は曲が良いからだと思います。元気で明るいというより、センチメンタルで聴いている人に訴えかけるような曲です」(冨樫)。
「作戦はかなり練りました。与えられた時間は短いので、ほとんどのグループは2曲だけの披露なんです。そこをあえて3曲やりました。2番のサビまでワンコーラスで詰めたり」(谷)。
「加入して半年も経っていないんですが、全力でパフォーマンスしました。ファンの皆さんが一生懸命応援してくれたのも力になりました。私たちが優勝できなかったら逆にどこが優勝できるのって。私自身、タイトル未定のことが好きで絶対イケるって」(川本)。
――◆――◆――――◆――◆――――◆――◆――
北海道を拠点にするアイドルがTIFのメインステージ争奪戦で優勝するのは初。北海道から歴史を変えようという目標を成し遂げた。まねきケチャ(’16年優勝)や26時のマスカレイド(’17年優勝)らに肩を並べたのだ。
メンバーやグループのSNSのフォロワーは増えたものの、優勝の実感はないという。それでも取材は増えた。それは「責任感というか、自分たちで大丈夫なのかなという気持ちが出てきました。何も知らなかった頃よりは今の方がよっぽど不安です」(阿部)という感情につながっている。
現状に満足せず、驕らない。それが彼女たちの強さの秘密かもしれない。優勝後も毎週木曜に開催している定期公演は欠かさない。
「タイトル未定というコンテンツを通して、一緒に夢を追いかけてもらえる、何かを伝えたいというより、ファンの人と一緒に大きくなっていきたい」(松井プロデューサー)。
インタビューが終わってカフェを出る時には「ごちそうさまでした」とあいさつできるメンバーがいる。撮影中に時間が空いたメンバーは積極的にこちらとコミュニケーションを取ってくれる。ライブのリハーサルでは真剣に歌って踊り、マイクの調整も細かくする。特典会のチェキ撮影時には一人一人のファンに丁寧に接する。ライブ後は終電で帰るメンバーがいる。学業を両立させているメンバーもいる。当たり前のことを当たり前に――。
そしてライブは圧巻だ。彼女たちが作り出す雰囲気は独特。冨樫の言葉を借りれば「センチメンタルで感傷的な気持ちにさせてくれる」。ファンは声出しできないが、会場は熱気に包まれていた。北海道に降り立った時に比べてライブハウスの方が圧倒的に熱かった。半袖で正解だった。北海道に来た時よりも鳥肌がすごかったのだが。
〈文中敬称略〉
写真:田中健児
●PROFILE
タイトル未定
’20年4月11日から活動を開始した4人組のアイドルグループ。11月5日(土)にNEW ERA SYNDICATE Vol.3、6日(日)にMAWA LOOP TOKYO 2022、7日(月)にiCON DOLL LOUNGEに出演。詳細は公式HP(https://miteititle.com/)をチェック。