どう書き出したら良いのか、言葉がうまく出てこないのは、心身ともに情報量過多になっているからでしょうか。
つい先程、雨の中キャリーバックを転がし、重いリュックを背負って帰宅しました。
行きも帰りも夜行バスで、身体のあちこちが悲鳴をあげています。
学生の頃よりも、ハードだったなぁ。
下車の際、運転手の方がかけてくれた「お疲れ様」が沁みました。
今は朝の7時48分。ブルーシートの上に荷物を放り、畑に行って大きく実りすぎた野菜を収穫。雨もきりがよく落ち着いてきたので、家中の窓を開けて換気。植物に水をあげて、水道に溜まった水を流し、やっとお家が呼吸を取り戻します。
熱々のコーヒーを一口飲んで、やっとひと一息。
帰ってこれる場所があることの幸せと、安心感がすごい。
「ただいまあぁぁぁ」と声が漏れる。
二週間ほど、友人の故郷である山形にいました。
それほどの期間、撮影ではなくプライベートで見知らぬ土地を巡ったのは初めての事でした。
旅、夏休み、とも言えますが、ある目的を持ってその土地に行ったので、なんだか怒涛の日々を過ごしました。
脈々と続く大きくて静かな山に囲まれた、見たことのない景色。
生き物の気配。
その土地での生活と歴史、言葉。
私は埼玉の都会とも田舎とも呼べない街で育ったので、知らない景色のはずなのに、なぜかとっても懐かしい気持ちになるのはなんでだろう。
「ふるさと」という文字が頭に浮かびます。
水路に惹かれる。
水はどこからくるんだろう。
廃校のプール脇に置かれた机。
いつかの誰かの足跡ひとつ。
町を巡り、図書館に籠り、また車を走らせて別の町へ。
松尾芭蕉も訪れた「宝珠山立石寺」にも行きました。
一歩踏み入ると痺れるような静けさ。
一礼し、踏みしめて登ります。
途中、頭上で枝の一部分がカサカサと大きく揺れていて、ビクッとしたのですが、よく観察すると、その先の枝も、一部分だけ揺れていることが分かって。
それは木々の間を細く抜ける、風の通り道でした。
しばらく眺めて、また、一歩一歩登ります。
そういえば、あんなに丁寧に山を登ったのは初めてかもしれない。
立石寺はお寺なので、奉納後に合掌をして参拝をしました。
いつもは習った通り、住所や名前を心の中で唱えるのですが、この時ばかりは、とても静かな気持ちでした。
目を閉じて、香ってくる線香に心身がとても落ち着いた感覚を、よく覚えています。
山頂からの景色。
松尾芭蕉の詠んだ「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」という句を思い返しました。
その時鳴いていた蝉と、今聞こえる蝉の声は一緒なのかななんて考えたり。
どの街も印象的ですが、特に長井の町が忘れられなくて、別日の早朝に再度向かいました。
蒸気する大きな山と手入れの行き届いた田園。
その中を歩くと、私の気配を感じ取ったイナゴが音を立てて飛び跳ねます。
散歩していると、向こうから軽トラックがやってきました。
「まずかったかな」と、節目がちに道を避けると、目の前で車が止まり、おじさんが窓から顔を出して、
「何しっだの?」
と一言。
「朝日が綺麗だなと思って、」
「んだの」
そういうと、そのまま前に向き直って、ブーンと走り去って行きました。
緊張したぁ。けど、なんだか、なんだか、ほっとしたというか、ほこっりというか。変な人と思われたかな、とか、色々でした。お邪魔します。
桃食べました。
途中大事なオーディションの為、東京に戻り、その足で今度は友人の親戚が勤める会社で職場の方にお話が聞けるということで、宮城県に向かいました。
その職業について、聞いてみて分かったこと、聞いただけじゃ分からないこと、初めて知ったことなど、たくさん教えて頂きました。
時代の変化や大きな出来事によって、変わっていくものと、変わらないもの。
印象的だったのはかつて現場に出ていて、今は他の部署に勤めている方にお話を聞いていた時のこと。
その仕事で得られる魅力について質問。
「やっぱり景色は特別ですか?」
「1ヶ月も経てば飽きる。東京の人が田舎みて、いいなぁて思うのと一緒だの」
「なるほど…」
訳あって職業はここに書けないのだけれど、その職場での景色は他では得られないようなものだと思っていたので拍子抜けしたことと、自分は所謂「田舎」に対して一種の憧れが強く、高揚していたことに気づき、また自分が求めていた回答があったことに対しても、恥ずかしかった。
ドギマギしているとその方が
「まぁでも、今思い返すと、うん。やっぱり綺麗だった」
と両手をすり合わせ、少し遠くを見てつぶやいた言葉に、ほろりとなりました。
お話を聞けるのは10分という約束だったのに、その後は、幼少期の頃、その仕事を意識し始めたきっかけになった映画や小説などについて盛り上がってしまい、結果随分と時間をオーバーすることに。
本当に貴重な、楽しい時間でした。
それから、宮城の行かなければと思っていた場所を巡りました。
見て、知って、感じて、想って。
自然は自分の向こう側にあるのではなく、同じように存在して生きているということ。
その土地で生きていくと決め、未来に繋げていこうとする人々の想いと団結力に胸打たれました。
私はその一部しか知らないけど、知れて、私も、一生懸命生きねばと、思いました。
少し寝て、放置してしまった家を掃除して、また、この場所での日常にゆっくり戻って行きたいと思います。
そうそう、少し先ですが、来年公開になる作品がいくつかあります。
先日、映画「僕の中に咲く花火」の試写会に行きました。
あのじめっとした岐阜での夏を思い出します。
皆さんにどう届くのか、今からとても楽しみです。
その時はぜひ、見ていただければ幸いです。
これからも、よろしくお願いします。
【毎連載恒例のオススメの一冊】
葵うたの aoi utano
’99・7・4埼玉県出身。蟹座。B型。
俳優・タレント。ドラマ「ガールガンレディ」、「パリピ孔明」などの出演経験があり、アニメ「Artiswitch」では主人公の声優を担当。長編映画「タイムマシンガール」で主演の星野可子役を演じる。先日最終回を迎え、山田彩花役を演じたドラマ「さっちゃん、僕は。」がNetflixにて配信中。