豊洲PITで誓った未来 デビュー1周年ワンマンライブで振り返る僕が見たかった青空の素顔

今、自分がいるその場所から仰ぎ見てみれば、たとえ何かが邪魔していようとも、空は必ずその先に広がっている。10年前も、100年前も、1000年前も、ほとんど変わりのない空が、いつもそこにあるはずだ。空があることなんて、当たり前すぎて、日々の忙しさの中で忘れてしまっている。でも、あの空は今日もそこにあって、人に知られようと知られまいと、さまざまに表情を移ろわせている。晴れ渡る日もあれば、曇りの日もあろう。雨の日もあれば、台風の日だってある。

 僕が見たかった青空、メンバー23人のデビューからのこの1年もきっとそんな風だっただろう。自分たちのCDを店頭で見た日、デビュー曲を歌番組で披露できた日、メンバーとの仲が深まった日など、たくさんの喜びを味わえたに違いない。一方で、まだあまりファンが集まらなかったデビューイベントの日、選抜制が導入されて1つのグループが分断されてしまったように感じた日、〝乃木坂46公式ライバル〟というプレッシャーが重くのしかかってきた日など、苦しさや悔しさもいっぱい感じてきたはずだ。

 そうして、この1年を駆け抜けてきた彼女たちは、8月30日のデビュー日、デビューイベントが行われた場所に戻ってきた。台風の通過で不安定な空模様の中、デビュー1周年記念となる「アオゾラサマーフェスティバル2024」が東京・豊洲PITで開催された。

 2カ月前、6月22日に行われた結成1周年を記念した「僕が観たかったワンマンライブ vol.1」(東京・Zepp DiverCity)は、確かな成長を見せようという緊張感がだいぶあったように感じられたし、1時間をかけて、メンバーが一人ずつこれまでの葛藤などをスピーチしたこともあって、しみじみとしたライブになった印象だが、今回は「楽しもうっていう気持ちがみんな強いかも」と八木仁愛が本番前に話してくれたように、変に気負わず楽しんでいる様子は伝わってきた。いや、それ以上に以前よりも格段にグループとしての存在感が増しているというか、僕が見たかった青空はこういうグループなんだというものが見えてきたというか、とにかく観ながら胸の高鳴りを感じていた。

 この日、通しリハーサルを客席で観た私は、本番をステージの袖から見届ける機会に恵まれた。メンバーの近くで、彼女たちを支えるマネージャー陣の近くで、このライブが作り上げられていくさまを見ていて気が付いたのは、当たり前のことを当たり前のように取り組んでいる姿だった。当たり前のことすぎて、忘れてしまいそうなことから、目を逸らさずに取り組んでいる姿だった。ひとつひとつの曲をどう歌い、どう踊り、どう観客に届けるかという、演者にとってもマネジメントにとっても当たり前のことを、本当に真摯に、真剣に、実直に向き合っているように感じた。レッスンを重ねてきて、今でき得る限りのことを、ここで見せようとしていて。

 ステージの裏側にいて、別に何か特別な光景を目撃したわけではないが、そんな風に感じたのだ。決められたタイムスケジュールの中でセットリストをこなしていくべく、慌ただしく準備をし、ステージに立ち、袖にハケて、着替えがあれば着替えをし、水分を補給する者は補給し、またステージに飛び出していくメンバー。照明の当たるステージと、ほとんど暗がりのステージの袖を、彼女たちは行き来する。こんなに光と影を人生で行ったり来たりすることなんて、普通はあまりないよなと思いながら見ていた。なんだか、〝生きる〟ということが凝縮された世界で、彼女たちは必死に走り抜けているように映った。

 そう思うと、選抜制なども人生の縮図のように感じられてきた。生きていれば、何かしらに選ばれる時もあれば、選ばれない時もあるが、こんなにはっきりと、そして何度も自分の立ち位置を判別されることはなかなかない。そんな過酷と言ってもいい世界に身を置くのは、肉体的にも精神的にもしんどいことだろう。でも、彼女たちはステージに立つ。全力で生き抜こうとしている。自分のためだけなら、きっといつだって投げ出せる。でも、自分のためもあろうが、それよりも遥かに大きく、ファンのために、支えてくれるスタッフのために、誰かのために活動していることだから、逃げ出そうなどと思いもしなければ、喜ばせたい、笑顔にしたいという一心でがんばれているのではないだろうか。

 通しリハーサルで、クライマックスで披露されるデビューシングル「青空について考える」の合唱中のことだった。須永心海が涙を流しながら歌唱していた。デビュー日の8月30日の今日は、4年前に初めてアイドルになりたいことを打ち明け、その2週間後に亡くなった彼女の父親の命日だった。

 当たり前のことを当たり前のように取り組む姿勢は、セットリスト(本編13曲、アンコール2曲)にも如実に表れていたように思う。まず1曲目、全メンバーがそろって登場するかと思いきや、選抜メンバーの青空組のみで3rdシングル「スペアのない恋」を披露。続く2曲目で非選抜メンバーの雲組が登場し、同シングル収録の「涙を流そう」をパフォーマンスした。ライブの幕開けを飾る青空組と、そうではない雲組という差を、1曲目でつけてきたことはちょっと意外だった。が、ライブ全編を見終わった今振り返ると納得の曲順だった。2ndシングル「卒業まで」から選抜制が導入され、1つのグループの中に選抜メンバーと非選抜メンバーが存在していることを、ライブ冒頭で改めて認識させる。同時に、互いにそこまでの優劣など感じさせないどころか、どちらも、既存のアイドルグループの中でも随一と思わせるパフォーマンス力を見せつけてきたではないか。そして、3曲目はそんな2組が1つになり、全メンバー23人でデビューシングル「青空について考える」をパフォーマンス。僕青ならではの物語性に富んだ群舞が、23人という大所帯にも関わらず、乱れのない正確な動きで表現される。青空組、雲組、全メンバーという3つの形態を僕青が武器として持ち合わせていることが、ライブスタートの3曲で高らかに宣言されたと言ってもいい。

 デビュー1周年記念のライブで、僕青がどういうグループかということを分かりやすく見せていくためにも、3曲目以降も全メンバーでのパフォーマンスが続いてもいいはずだが、そうはならなかった。全メンバーで1曲披露しただけで、4曲目から7曲目までユニット曲(「思い出尻切れとんぼ」、「制服のパラシュート」、「好きになりなさい」)が続いていく。しかも、ユニット曲の本来のメンバーをシャッフルして、各メンバーが初めての曲に挑んだ。そこに、マネジメント陣のメンバーへの鼓舞と、パフォーマンスに対する確かな自信を感じた。ステージに立つメンバーが少なければ、パフォーマンススキルが未熟なメンバーは悪目立ちしやすいだろう。だが、デビュー1年目にしてユニットのブロックをここで組み込んできたのは、各メンバーのパフォーマンス力がこの1年で確実に培われてきたからこそだろう。

 そして、8曲目から13曲目の本編ラストまでは、全メンバー23人でパフォーマンスが披露されていった。シャッフル後の8曲目「友よ、ここでサヨナラだ」のセンターに立つのは、八木仁愛と早﨑すずき。全メンバーでラストまで続くパフォーマンスの中で最初の1曲目に、この曲が選ばれたのは明らかに意図があったように思う。その圧倒的なダンススキルと表現力で全シングル3作のセンターに立つ八木のセンター曲ではなく、八木と早﨑の2人がセンターに立つ曲を持ってきたのは、にくい演出だ。僕青には八木だけじゃなく、エースとして早﨑も控えていることをアピールするように、その後の9曲目「僕にとっては」、10曲目「空色の水しぶき」と早﨑のセンター曲が続く。力強さと陰影のある八木とは対称的なほどに、可憐さと明るさと、どこか脆さを感じさせる早﨑の存在が、僕青に深みや彩りを与え、グループとしての可能性を感じさせてくれる。付け加えておけば、全メンバーでのパフォーマンスを見ていると、早﨑のみならず、ビジュアルが際立つ吉本此那や金澤亜美、さまざまな面で個性が発揮できる柳堀花怜や杉浦英恋、雲組単独公演でもそのダンススキルで魅せる長谷川稀未や持永真奈らがおり、僕青の層の厚さを感じることができる。

 早﨑センター曲の後、暗転し、ダンスブレイクへと突入する。ステージに1人登場したのは、八木だった。アイドルの枠に収まらないダンススキルで、TikTokでもバズっている彼女が、青空組のメンバーを従えてとことん見せつけた。その時、ステージの袖に雲組のメンバーは待機していたが、萩原心花が見やすい場所に移動して、じっと八木の姿を見つめていた。同じく袖にいた私は、なんとなくその萩原の真剣な眼差しが印象に残っている。

 八木を筆頭に披露された青空組のダンスブレイクは、十分に見応えがあった。アイドルのコンサートで、ダンスブレイクのパートはよく見る光景だが、アイドルにとってダンスだけで観客を魅了するということは決して簡単ではない。しかし、僕青はそれを難なくやってのけてきた。そこには、しっかりとダンスだけで楽しませようという覚悟と気迫があった。

 ダンスブレイクを経て、雲組のメンバーも再びステージに戻り、八木センター曲が3曲披露され、本編最後となる13曲目は「あの日 僕たちは泣いていた」。別れた恋人との涙の記憶と再会を歌った曲だが、メンバーがこの1年、たくさん涙してきたであろうこととリンクしつつ、これまでとこれからを繋ぐ1曲で本編を終えた。秋元康氏が手掛ける僕青楽曲の歌詞は、いずれも素晴らしいことを伝えておきたい。教訓などを大上段に振りかざすこともなく、〝青春〟にフォーカスし、その輝きや甘酸っぱさ、苦しさ、焦りなどを日常的な風景から切り取り、爽やかに表現している。鶏が先か、卵が先か、それは分からないが、僕青というグループの雰囲気と歌詞は重なり合っていると思う。

 アンコールに先駆け、リーダーの塩釜菜那が一人スポットライトに照らされてステージに立ち、7分間に及ぶスピーチを行った。アイドルとしてもリーダーとしても1年の経験しかない塩釜だが、その明るさと優しさと正義感で、メンバーからすでに厚い信頼を寄せられている。そして、彼女の言葉はいつも気持ちに溢れている。

彼女のスピーチで僕青というグループのほとんどを語ってくれているように思う。全文も本稿に掲載するので、ぜひ一読していたきだい。

 涙で目を潤ませながらも笑顔で語り終えた塩釜がメンバーを呼び込み、アンコールの1曲目としてデビューシングル「青空について考える」を早﨑のピアノ伴奏と合唱で再び披露した。乃木坂46公式ライバルという重い十字架を背負ってのデビュー、今回のセットリスト、リーダー・塩釜のスピーチという文脈の中で歌われたデビューシングル「青空について考える」の合唱は、胸にぐっとくるものがあった。

 ステージのセットもシンプルなら、奇抜な演出などもなく、ここまでストレートにパフォーマンスで勝負してきたライブだったが、ピアノ伴奏と合唱だけという構成ではさらにそれが極まって、彼女たちの溢れる想いがむき出しで伝わってくるようだった。涙を浮かべながら歌うメンバーを見れば、尚更だ。全員が真っすぐに立ち、前を見つめて歌う姿は彼女たちの気持ちがひとつにまとまっているように見えて、普段の多くの活動で青空組と雲組の2つに分かれているとはいえ、23人で僕が見たかった青空なんだなと思わずにはいられなかった。

 アンコールラストは雰囲気が一転、ユニットで披露した僕青のライブ曲と言ってもいい「好きになりなさい」を、今度はメンバー全員でにぎやかに披露。レイを首からさげ、大きな浮き輪などを持ち込んだメンバーが所狭しとステージでわちゃわちゃしながら、「アオゾラサマーフェスティバル」というタイトルにふさわしいサマー感満載で、お祭り騒ぎでフィナーレを迎えた。

 18時開演の20分前。メンバーたちは楽屋前の廊下で輪になって、本番での注意事項をリーダーの塩釜が伝えていた。柳堀や早﨑、コーナーMCを任された須永も自主的に改善点などを発言する。

本番前の最終確認を終えたところで、円陣へ。塩釜の「せーの」という掛け声に続き、23人が「一番輝く太陽に。夢や希望をどこまでも。届け〜! 僕が見たかった青空!」と声をあげて、「青空!」で人差し指を高々と空に向けた。

 坂道をのぼって、少し近づいた空を見上げるのももちろん素敵だろう。でも、どこからだって空は見上げることができる。どこにいようとも空は広がっている。そんな空の身近さが僕青にはあるように思う。彼女たちが追いかけているものも青空かもしれないが、彼女たちこそが青空でもある。僕らが見たかったアイドルは今、僕が見たかった青空にある気がしている。

 円陣が済むと、全員がひとりずつにグータッチをして回っていく。なぜか「がんばろう」ではなく、「大好き」と笑顔で言いながら。そして、彼女たちはステージへと向かっていった。

【塩釜菜那スピーチ全文】

 前回の6月22日は僕青全員が思いの丈を話して、MCの時間が1時間近く行ってしまったので(笑)、今日は私が代表して、皆さんに思いを話そうと思います。この時間からTikTok配信も始まっています、ありがとうございます。

 早速思いを話そうと思うんですけど、あの私、このライブに向けての練習で、すっごく心に残った、刺さった歌詞があって、それは「いつかの君を今でも覚えてる」(青空について考える)って歌詞なんですけど、私、その歌詞、この歌を歌ってる時に鏡を見て歌っていたんです。そしたら1年前の自分を思い出してしまって。1年前の自分は本当に何も知らなくて、すごい希望で溢れていたなって思ったんです。会場にファンの方がいて、ペンライトでキラキラしてる風景が当り前のものだと勝手に思っていたので。デビューしてからのライブとかで現実を見た時に、そんなアイドルって簡単なものじゃないんだなっていうのを実感しましたし、デビューしてからも現実を見てきたなって感じます。これからも現実を見て過ごしていくと思うんですけど、でもそれは全然悪かったなって思わないんですよ。全然ダメなことじゃなくて、なんかそれがあったからこそ、僕青は強くなれたし、今の僕青があるって思っています。

 この1年を振り返って何がすごかったかなって考えてみると、毎日メンバー一人ひとりが何かしらの希望を持って過ごしてきたことが本当にすごかったなって思っています。

 皆さんが、私たちと一緒に行きたいと思っているステージに、私たちもいつか立ちたいって大きな夢を持っているんですけど、それを毎日毎日ずっと思い続けるのは、結構遠いものだからこそ、ちょっとしんどくて。その毎日の希望になっていたのは、メンバーに会うことだったり、ファンの方にイベントとかがで会うことが楽しみでした。メンバーとファンの方にはとても感謝しています。これはきっとほかのメンバーも同じだと思うのでこの場で伝えさせてもらいました。本当にありがとうございます。

 今日皆さんがこの会場に来るまでとか、今まで僕青を応援するために、すごくたくさんの努力をしてきてくださったと思うんですよ。このイベントに来るためにたくさんの時間をかけたり、お仕事とか学校とかがあるのに頑張って来てくれたりするじゃないですか。それと同じようにメンバーも、今日のライブに向けてすごく努力してきて。私たちだけじゃなくて、僕青に関わってくださっているスタッフの方々も、僕青がどうしたら良くなるかなとかファンの方に喜んでもらえるためにはどうしたらいいのかなっていうのを毎日考えてくださっていて、もうみんな本当に努力してくれているんですよ。よく歌の歌詞で努力は報われないこともあるっていう歌詞あるじゃないですか。でも、私たちは、僕青は、皆さんの努力を絶対に報われない努力にしません! 絶対絶対報われる努力にしたいと思っているし、私たちが努力しているのを見て、鼻で笑う人とかいるじゃないですか。私たちはそれに絶対に負けません! 僕青は1年やってきたけど、本当に強いんですよ。チームワークもあるし。皆さんもいるし。今ここでこうしてTikTok配信もしているし、世界中に発信されている言葉だっていうことも分かっているんですけど、それでも勇気を持って言うんです、この言葉を。だから。これからも僕が見たかった青空で、自分たちの夢や希望を追いかけていきますし、ファンの皆さんとメンバーと一緒ならどんな壁でも越えられるっていうのを信じているので、皆さんぜひついてきていただけると嬉しいです。ありがとうございます! 

そして、今、ステージ袖でメンバーが話を聞いていると思うんですけど、いつも恥ずかしいから気持ちを伝えられていないなって。せっかくだからこの場を借りてメンバーに感謝の気持ちを伝えたいなって思います。

 本当に私たちが初めてのメンバーとして入ってきたからこそ、自分はグループのために何ができるんだろう、何ができているのか、何もできてないのかなって思うメンバーもいるんですよ、きっと。ここにいていいのかな、って迷っているメンバーもいたりして。がんばり方が分からないとか、自分って本当にがんばっているのかなって感じているメンバーいると思うけど、私は本当にがんばってくれていると思います。このライブも私がアワアワしている時に、ここをこうしたらいいんじゃない? とかたくさん提案してくれるメンバーもいて。だから本当に自分たちに自信を持ってほしい! これからもたくさん不安があると思うんだけど、自分の色が何なのか分からないとか思うかもしれないけど、これから冒険していって、たくさんの自分の良い所が見つかるかもしれないし、だからこれからも僕青としてよろしくお願いします!

写真/田中健児
取材・文/小畠良一

⚫️PROFILE


乃木坂46の“公式ライバル”として誕生。全国オーディションで応募総数3万5678人の中から選ばれた23人で結成され、’23年8月30日に「青空について考える」でメジャーデビューした。10/13(日)に昭和女子大学人見記念講堂にてワンマンライブを開催するほか、11/13(水)に4thシングルを発売。

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