葵うたのweb連載【葵色日記】#36 葵のお暇

さて、どう始めたらいいのか。
どうにも導入が思い浮かばなくて、頭を悩ませています。

小学生の頃、大好きな国語の授業の中でも一番苦手だった内容は、作文でした。
たぶん、本当に好きでやりたいものほど苦手。
上手くやりたいから、理想があるから、なかなか書き始められない。
今年のモットーは「尻込みしたり、腰が重いことほどチャンス。楽しんでやろう」です。

そんなことをモットーにした今は、埼玉の実家にいます。
正確には実家近くの喫茶店。
東京にもあるチェーン店ですが、何かが違う。
何が違うかというと、たぶん音が違う。
いつもはイヤホンをして、周りを遮断してしまうのに、今日は特に気にならない。

東京はせわしない。
一人ひとりが出している音の量が違うような気がする。
機械一つでさえも。

もちろん東京はお一人様が多いのもあると思うけど、埼玉では隣のご夫婦も、向かいの女子会も、言葉がゆっくりで余裕がある。
隣は絵に描いたようなご夫婦。
言葉からが優しさがにじみ出ていて。
いいなぁ、こんなに穏やかにずっと一緒にいられる夫婦に憧れます。
平穏。

旦那は相槌をしながら、これでもかと新聞と足を広げ、熱心にニュースを読んでいる。
ご婦人は……おしゃれだなぁ。
上品なワインレッドのメガネに、横側は模様を描くようにねじれている。
前面に大きなバラの刺繍が入った半袖ニットからメガネと同じワインレッドの袖がのぞいている。
ズボンは白で、靴はパンみたい。
ショートヘアは綺麗な栗色に染められ、ウェーブを描いている。

かわいい。

東京にいるとどうしてもモノトーンな服ばかり着てるけど、こうゆう色使いにとっても憧れる。

私の祖母もとってもおしゃれでかっこいい人だった。
赤いルージュは筆を使って綺麗に輪郭を描き、1ミリの隙間なく塗る。
その姿を子どもながら「かっけぇー!」と見つめていた。
「まっ黒は絶対着ない!」主義の人。

小学生の頃、しばらくは祖母の家で暮らしていた。
ステンドグラスが好きで家中のライトがそれだった(私はステンドグラスの亀がお気に入り)。

それからティーカップも好き。
思い返すと子どもがはしゃぐには危ない家だった。
どこを見ても割れやすい物ばかり。
でも、もう大人なので、私も集めてみようかな。
子どもの頃に憧れていた物が、気付いたら自分も手にできることが嬉し寂しい(笑)。

仕事で一度東京へ戻った時、「なんか顔変わった?」と友人に言われた。

別に体重も変わってないし、地元では東京にいる時よりお酒を飲む機会も減っていたので、(地元で会う友達もいないし、コンビニもスーパーも遠いので家にある水しかほぼ飲んでいない)むくんでいるわけでもなく、ただ顔が緩んでいたんだと思う。

同じようで、食べてる物も場所も違う。

人は本当に環境で顔まで変わってしまうんだなと。

たしかに、まず街を歩いている時の気分が違う。
東京では人にぶつからないように、波に乗るように、遅れないように、また、気になるものがたくさんあるからキョロキョロしたり。

地元ではぶつかるほどの人もいないし、わざわざ気になる何かもないし、(新しい家できたなとか、置いてある白菜腐りそうとかは気になる)乗る波もないし、遅れちゃいけない予定も特にない。

そりゃ顔も緩む。
まぁ、私の仕事に関わる人は地元にはいないし、つまるところ「葵のお暇」状態なわけだ。
お暇すぎて、何かになればと、カメラと財布だけ持って、小学生の頃住んでいた隣町思い出探検ツアーをした。

それはまた次回。

それから「娘でいられる」ことも大きいのかもしれない。

母はもんじゃを作る達人。

今回、実家で体調を崩して、子どもの頃に風邪をひきたがりだったことを思い出す。

今は最悪なことだけど。

いまだにバリバリ働く母の寝ている姿をこそっと写真に撮っておいた。
子どもの頃はほとんど見たことのない姿。
私はこの人に育ててもらったんだなぁ。

今日、東京に戻る。
騒がしくて、お金もかかる東京。たいして面白くもない。
でも、目標も仕事も仲間も、お気に入りの場所もある東京。
友人がいる。
女優を目指して来た東京。

よし、がんばるぞ。

【毎連載恒例のオススメの一冊】


「手ぶくろを買いに」 作/新美南吉 絵/黒井健

葵うたの aoi utano
’99・7・4埼玉県出身。蟹座。B型。
俳優・タレント。ドラマ「ガールガンレディ」、「パリピ孔明」などの出演経験があり、アニメ「Artiswitch」では主人公の声優を担当。blt graph.vol.96に水着グラビアで登場。ポストカード付きはこちら。最近では「AEON トップバリュ」のTVCMに出演。

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