円陣と、合唱と、炭酸のようなほろ苦さ。/「僕青祭2025」ライブレポート②

「私のせいです。私のミス」。

と、須永心海は言った。昼夜2部制だった「僕青祭2025」を終えて、その感想を聞いた時の言葉である。

2部の開演前のことから話さなければならない。ステージ裏の楽屋が並ぶ廊下の先に、機材などを置いているちょっとしたスペースがあった。そこでメンバーは円陣を終えたのだが、開演までまだ少し時間があったようで、ステージのそでには向かわず、メンバーは一旦、ぱらぱらと散って、楽屋に戻ったりするなど、思い思いに過ごしていた。円陣をした場所にはもうメンバーは誰もいないと思いきや、機材が置かれた人目につかない隅の方から、目を真っ赤にしていて、泣いていたことがすぐ分かる須永が、みんなが去ったあとに出てきた。

どうしたのだろうと思ったが、もう気持ちを切り替えて、本番に臨もうとしているのだろうから、その涙の理由など聞くわけにも行かなかった。だが、いつも明るく、元気で、面白くて、自分のことより周りに気を配る人が、あんな風に弱々しくしているところを見たことがなかったので、どうしても気になって、2部の終演後、厚かましくも、涙の理由を尋ねた。

須永「環境のせいにもしたくないし、もちろん誰かのせいでもない。私のせいです。私のミス。私が音程をハズしちゃって、そのハズした音程のせいで、みんなもそれにつられちゃって。私のせいであの曲は上手くいかなかった」。

「あの曲」というのは、1部の本編最後にアカペラで合唱した「炭酸のせいじゃない」のことだ。須永の横で話を聞いていた塩釜菜那が、須永をかばう。

塩釜「1回、ほかの音程に行っちゃっても、元に戻せるのがプロだろうけど、みんながみんな、そこまでのレベルに行ってなかったから、つられちゃったんです」。

須永「私は、私のせいでつられちゃったんだと思っています。だから、ほんとにみんなに申し訳ない」。

メンバーに申し訳なくて、ミスをした自分が悔しくて、それだけで2部の開演前の円陣後、須永は涙を流していたのではないような気がした。その時の円陣を最初から見ていたら、きっとそう思うだろう。見ていて、胸が熱くなった円陣だった。

その時の円陣を振り返ろう。塩釜が1部の反省を踏まえて、「ここでみんな前を向きましょう」「髪の毛とか手とかなるべくマイクに当たらないように」などいくつかの注意点をメンバーに説くと、その度に「はいっ!」と真っ直ぐな返事がメンバーから返ってくる。「あとなんだ……」と塩釜がほかに言っておくことがないかと頭を巡らしてしていた時、メンバーの誰かの「あと、〝炭酸(のせいじゃない)〟」という声がした。塩釜がそうだったと言う感じで話し出す。

塩釜「結構みんな不安だと思うけど、本番は目を合わせたらいいと思うなぁ」。

八木仁愛がすぐに続いた。

八木「あと、(音程がズレていたり、声か小さかったりして)ここは誰かがいかないとってなったら、もう構わず振り切っちゃっていいと思う。主旋が弱いと思ったら勇気ある者が入って歌ったら」。

塩釜「今じゃあ、そんな感じでやってみよう」。

「せーの」。

誰ともなく発せられたその掛け声に、八木と杉浦英恋が目を合わせてアカペラで静かに歌い出した。そこからメンバーが入れ替わりながら歌唱して、だんだんと曲調も高まっていくとともに、メンバーの声も重なり合ってゆき、波が押し寄せて来るように、全員でのハーモニーがサビで清らかに響き渡った。なんでもない機材置き場のようなスペースを、彼女たちの歌声が、不思議と静謐に包んだ。

その頃、客席はもうお客さんでいっぱいだった。暗転しているステージの裏側では、メンバーたちが円陣を組んで、お互いの顔を見合いながら、別々の道を歩み出した恋人たちのほろ苦い青春の歌を合唱していた。歌いながら、卒業を控えて最後のライブ出演となる山口結杏のことが、頭によぎっていたメンバーもいたことであろう。

塩釜「綺麗!綺麗!」。

歌い終わって、思わず塩釜がそう声をあげたように、素晴らしい合唱だった。なんだか、嘘のような、美しい光景だった。目には見えないが、メンバーたちのさまざまな思いが、歌声に帯びているようで胸を打った。

須永が円陣の時のことを振り返る。

須永「私、1部でああいうことになったから、2部はもう怖くて、歌えなくなりそうだったんですよ。でも、みんながただ『大丈夫だよ』とかって言うんじゃなくて、一緒に歌ってくれたり、『これで歌わなくなるよりガツンと挑戦したほうがいい』って言ってくれたりして。仁愛ちゃんも『2部でもしミスちゃったとしても、私が軌道修正するから、思いっきり歌ってみて』って言ってくれて。2歳下なのに頼もしいんですよ。なんか、すごくメンバーに救われました」。

円陣はいつもの掛け声で締めくくられた。が、リーダーの塩釜がいつも1人で担当している「せーの」と「届け!」の部分を、山口に頼んだ。掛け声の前に山口はメンバーにこう語りかけていた。

山口「みんなとパフォーマンスできる時間をとにかく楽しみたいと思います。心を強くして行きたいんですけど、(涙が)洪水になった時は……(笑)。とにかく、楽しもう!」。

塩釜「(洪水になっても)大丈夫大丈夫。それも僕青だから」。

そして、山口にとって最後となる円陣の掛け声を自らの音頭で始めた。

山口「せーの」。

全員「一番輝く太陽に。夢や希望をどこまでも」。

山口「届け!」。

全員「僕が見たかった青空〜!」。

皆、気合を入れるべく、大きな声で叫んだ。「青空〜!」で高らかに〝青空〟に向かって指を差した。山口の横にいた金澤亜美が感極まって泣き出してしまう。「早いよ、早いよ(笑)」とみんなから声があがる。

塩釜「青空を見て、青空を(笑)」。

金澤は涙があふれ出さないように〝青空〟を仰ぎ見た。それから、ほとんどのメンバーがその場から離れたあとで、須永は泣いていたようだ。

須永「1部が終わってから、みんなに申し訳ないなって思っていたけど、2部までそんなに時間もないから、ずっと泣かないようにしていたんです。でも、(副リーダーの柳堀)花怜に『ごめん。1回、泣いてもいい?』って言って、泣かせてもらいました。そしたら、スッキリしました」。

2部の本番での「炭酸のせいじゃない」について、須永は「歌い切ることができました。(安納)蒼衣ちゃんが手を繋いで一緒に歌ってくれたりもして」と笑顔で振り返っていた。合唱は、いつからか僕青のライブで定番化している。パフォーマンスにおいて〝気持ちを届ける〟ということを大事にしている僕青にとって、剥き出しの歌を届ける合唱は、もってこいの表現手段だろう。未熟さもあからさまになってしまうから、難しい挑戦ではあるが、それを見せてしまうことも含めて、僕青というグループの偽りのない良さを合唱は伝えられるように思う。

同じことが、円陣についても言えるのかもしれない。だから、ライブレポートを記事にするたびに、書かざるを得なくなってしまう。僕青というグループの偽りのない青春が伝えられるように思うから。

撮影=田中健児
取材・文=小畠良一

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⚫︎PROFILE

乃木坂46の“公式ライバル”として誕生。全国オーディションで応募総数3万5678人の中から選ばれた23人で結成され、’23年8月30日に「青空について考える」でメジャーデビューした。12/17(水)に7枚目シングルのリリース、12/28(日)には’25年のラストライブ「BOKUAO青春納め2025」を控えている。

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