早﨑すずき、というヒロイン──「空色の水しぶき」のミュージックビデオ撮影現場で感じたこと──

 夏、青空、入道雲、海、水しぶき、制服……青春のイメージを集めたようなMV「空色の水しぶき」を見ていると、何度か取材をしてきた僕が見たかった青空というグループもそのメンバーも本当にこんな印象なんだよなと思ってしまう。今までになく等身大の彼女たちが、水しぶきをあげて一生懸命に〝オール〟を漕ぐ僕が見たかった青空というグループの今が、このMVの中に映し出されている。

 「空色の水しぶき」は、11月13日(水)にリリースされる4thシングル「好きすぎてUp and down」のカップリング曲で、公開中の劇場アニメーション「かんばっていきまっしょい」の主題歌になっている。映画は、愛媛県松山市を舞台にボート部に打ち込む女子高生たちの青春を描く物語。芸能界を舞台にアイドル活動に打ち込むメンバーたちと重なるような作品だ。歌詞も振りも映画をモチーフとしたものになっているが、同時に僕青そのものを象徴しているような1曲にもなっている。

 優しいピアノの旋律からイントロが始まると、メンバーは5〜6人にずつに分かれていて、4つのボートを形作っている。各自が腕をオールに見立てて、ボートが漕ぎ出していくさまを表現する。デビュー1周年を迎え、力を合わせて2年目に漕ぎ出した彼女たちをも表すように。4つのボートの間をゆっくりと歩いてきて、真ん中に立ったのは、早﨑すずき。これまでにも早﨑がセンターに立つ曲はあったが、センターとして臨むMVはこの「空色の水しぶき」が初めてだった。

早﨑「撮影が始まる時、すごく緊張していました。今まで(八木)仁愛ちゃんがセンターのMVにしか参加したことがなかったから」

 早﨑と柳堀花怜とのデュエット曲「昇降口で会えたら」はMVがあるが、全メンバー23人でパフォーマンスする曲のMVは、いずれも八木がセンターに立ってきた。これまでのシングル表題曲すべてでセンターに立つ八木は、僕青の絶対的センターと言っていい。そんな中で、早﨑は、2ndシングル「卒業まで」収録の「微かな希望」で初センターを経験し、3rdシングル「スペアのない恋」収録の「僕にとっては」、続く4thシングル「好きすぎてUp and down」収録の今作「空色の水しぶき」で3目のセンターを務める。8月30日に行われたデビュー1周年記念ライブ「アオゾラサマーフェスティバル2024」では自身のセンター曲を続けて披露したほか、ラジオやテレビなど個人活動も活発化していて、八木とともにグループの顔として、早﨑の存在感は着実に増している。

 9月初旬、2階から海が見える学校を貸し切って、「空色の水のしぶき」のMV撮影は行われた。とても天気のいい日で、9月になったとはいえ、真夏のような日差しと暑さだった。青空が広がる屋上で、センターの早﨑のほか、八木、柳堀とともにフロントに立つ安納蒼衣、金澤亜美、工藤唯愛、西森杏弥、吉本此那の8人が登場するリップシーン(※顔をアップで写し、歌詞に合わせて唇を動かすシーン)の撮影からスタートした。

早﨑「最初のカットだったリップシーンは緊張していて。やっぱり自分のセンター曲っていうのもあって気を張りすぎていました。自分への期待を結構していたというか、『完璧にやってやるぞ!』って自分に言い聞かせていたんです。そしたら、いつもニコニコ笑っているのが自分の強みだと思っているのに、あんまり自然に笑えなくて、めっちゃ悔しいです!」

 そう言われて映像を見ると、確かに表情が硬い気もするが、それはそれで彼女の〝その時〟が収められているので、よい思い出になるだろう。続いて、水しぶきの後ろでメンバーがポーズを取るカットも撮影。アイスボックスに入れた水をメンバーとカメラの間に投げ出すことで水しぶきを演出していた。メンバーにはもちろん水がかからないようにしていたのだが、それでも安納は、水が自分の前に飛んでくるたびに驚いてしまい、何度かNGに。しかし、それが愛らしく、撮影がスタートしたばかりの現場に和やかな空気感を作り出していた。

 8人がリップシーンと水しぶきのカットを撮り終え、早﨑だけが別の制服に着替えて再び屋上に上がってくる。「一番気合いを入れてきたところ」というソロダンスの撮影があった。緊張の面持ちの中、撮影が始まろうとしていた。しかし、その時だった。

早﨑「ソロダンスを撮るよってなった瞬間、雨が降りはじめたんです!」

 晴天だった空が、にわかに曇りだし、雨空に。天気アプリで雨雲の流れを確認すると、どこも周囲は晴天なのに、この場所だけが局地的に雨雲に覆われてしまっていた。とはいえ、少しすれば通り過ぎるようだったので、その場で待機することに。傘の中、早﨑は緊張しているのか、気合を入れ直しているのか、とても真剣な表情をしているのが印象的だった。天候という想定できない出来事で、集中力が乱れそうだったのか、それとも──。

早﨑「雨が降ってくれたおかげで、ちょっと緊張がほどけたんです。そしたら、すごく楽しく踊れました」

 空は再び晴天に戻り、さらに、彼女の表情にもいつもの晴れやかな笑顔が戻って、青空と海が広がる屋上で、伸び伸びと楽しそうに彼女はソロダンスを舞っていた。

早﨑「仁愛ちゃんのようなダンスの技術は、短い時間ですぐに習得できるわけではないので、自分にしか出せない表現力でダンスを踊ることをいつも心掛けているんです。今回のソロダンスも(振付師さんに)教えてもらったものを、自分のものにできるように練習しました」

 抑圧された感情が不意に爆発するような動と静が際立つ八木のダンスとは対称的に、早﨑は動と静の中間を行くような優しさとしなやかさがあって、そして何より彼女の持ち味である明るさと爽やかさがダンスにもそのまま表れていると思う。ソロダンスもさることながら、メンバー全員でのダンスシーンでは、振り付けの楽しさも相まって、より一層そう感じさせた。

八木「すずは、なんかとってもアイドルっぽくて、爽やかですよね。なんて言うんでしょう……、すずはセンターに立つと、いつもより、すごく素敵なアイドルっぽくなるなって思っていて。そのアイドルらしさでみんなを引っ張ってくれている。私はキラキラした王道アイドルにずっと憧れていたんですけど、自分が似合うかは別にして(笑)。すずはとっても私が見たかったアイドルって感じがします」

 「空色の水しぶき」が収録されている4thシングルの表題曲「好きすぎてUp and down」のMVは、八木のソロダンスがメインに据えられた。八木と早﨑が対称的であったように、MV自体も対称的で「空色の水しぶき」はメンバー全員でのダンスシーンが大きな見どころだろう。メンバーそれぞれに見せ場がある振りになっているのもこの曲の特徴だが、八木が言うように早﨑が「そのアイドルらしさでみんなを引っ張ってくれている」。

 校庭にステージを設けて、水しぶきがあがる中でのダンスシーンは、これ以上ないほど曲にぴったりな情景の中で行われた。真昼時の炎天下ではあったが、まるでCGのような青空と入道雲が広がり、吹き出す水しぶきが、日差しにキラキラと輝いていた。そして、早﨑を中心にダンスをするメンバーたちも、水しぶきのようにキラキラと輝いていた。歌詞の言葉をそのままダンスに写し取って表現してきた僕青らしく、両手を使って水しぶきが弾けるような動作をする振りが、とても印象的で、爽やかで、楽しそうで、かわいらしい。

 強い日差しを直下に受けながらの撮影のため、全員の体力と体調を考え、ダンスシーンは短時間で撮り切った。といっても、1曲通しで3回ほどパフォーマンスしただろうか。1回のパフォーマンスが終わるごとにメンバーは近くに停めていた、冷房の効いたロケバスに避難する(校舎は冷房がなく、じっとしているだけで汗が流れてくるので)。水しぶきと汗でヘアメイクもすぐに崩れてしまうので度々直さなくてはならなかった。水しぶきの発射装置近くが立ち位置だった青木宙帆が特にびしょ濡れになっていたが、それはそれで楽しそうにしていた。青木だけでなく、ダンスシーンを撮り終えて、メンバーみんなが笑顔だった。いいシーンが撮れたとメンバーもスタッフも手応えを感じていただろう。そして、そのご褒美のように、メンバーにアイスやかき氷が振る舞われ、みんな大はしゃぎで頬張っていた。

早﨑「『空色の水しぶき』は踊っていてすっごく楽しくて。歌っていても踊っていても、いい意味で何も考えてないというか。『この曲はこうだから、ここはこうしよう』って考えることもすごく大事だと思うんですけど、『空色の水しぶき』は何も考えないで純粋に楽しんでパフォーマンスができるんです。だからこそ、私はこの曲がすごく好きです! 僕青の曲の中で今、一番好きかもしれない」

 早﨑すずきという人はそもそも、いい意味で「何も考えないで純粋に楽しんで」日々を過ごしたいと思っている人な気がする。そんな彼女だからこそ、この曲にぴったり合っているし、本人も「すごく好き」なのだろう。個人的にはここまで屈託のない、大げさではない、自然な明るさと爽やかさのあるセンターが、あるいはアイドルが今までにいたかなと、ふと思う。

早﨑「自分ではあまりセンターが似合うタイプじゃないなと思っていて。仁愛ちゃんのダンス力に匹敵するようなものが私にあるかと言ったらないし、初期の頃から仁愛ちゃんの隣(のポジション)にいたからこそ、その場所に落ち着く自分がいるし。センターに立つことがイヤっていうわけではないんですよ。素直にうれしいんです。でも、……私で大丈夫なのかっていう感じがあって(笑)。基本、ポジティブなほうではあるんですけど、意外と考えすぎるところもあるんです」

 まだ自分に自信を持ち切れていないのか、性格的なところからなのか。

早﨑「パフォーマンス中の私には『自分を見て!』っていうアピールがないって、スタッフさんとかに教えていただくことが多くて。だから、自分のダンスパートなのに、自分がメインに撮影してもらっているものなのに、なかなか人に印象を与えられずにいたと思うんです。例えば、カメラが自分以外のところにあると自分も映ってみたいなって思うくせに、いざカメラが自分のところに来ると前に出られないっていうことが多いんです」

 これまでに何度か早﨑への取材をしたり、その人物評をメンバーに聞いたりしたことをまとめると、〝純粋に歌って踊ることが一番好きで、決してひとり目立ちたいという人ではなく、自分のことよりグループのためにがんばりたいと心から思っている人〟といった感じだ。そういう人であることに今も変わりはないだろうが、「空色の水しぶき」のMVで踊る早﨑には「自分を見て!」というアピールが俄然出てきている。いやむしろ、こちらが見つめてしまう輝きがある。「見て!」という厚かましさなどはなく、「何も考えないで純粋に楽しんでパフォーマンスができる」からこそ、彼女自身が内側から自然と光りを放っているような輝きがある。

早﨑「『私は今、真ん中で自分らしく輝いているんだ』っていうのを全力で全面的にアピールできる曲にしていきたいんです。だから、ニッコニコでキラッキラで、素のまま、楽しんでいるまま、自信に満ち溢れた感じで堂々とセンターに立っている曲になったらいいなと思っています」

 4thシングルの表題曲「好きすぎてUp and down」のMVでも、メインとなるカットやソロダンスパートがあったが、自分らしく輝いている存在感を発揮していた。デビュー1周年を迎え、2年目で初となる今回のシングルで、彼女なりの「自分を見て!」をどうやら捕まえたようだ。

早﨑「この曲で一緒に青春を感じてもらえたらうれしいし、私たちのキラキラした青春を一緒に楽しんでほしいです」

 青春にヒロインは欠かせない。「空色の水しぶき」のMVを見れば、まぶしいヒロインをきっと見つけることができる。

 撮影は校舎内のシーンを撮影後、早﨑のほか、安納、金澤、工藤、西森、八木、柳堀、吉本の8人は最後のシーン撮影となる海へ向かった。海沿いの道を8人が走っていくカットでのことだった。OKが出ているにも関わらず、8人は止まらずに走り続ける。「止まって!」という拡声器の声も、夢中で走っているメンバーには聞こえていないようだ。撮影隊がいるスタート地点から彼女たちの姿がどんどん小さくなっていく。さすがに自分たちで気づいて立ち止まりそうなものだが、彼女たちはずっと走り続けていた。

写真/田中健児
取材・文/小畠良一

⚫️PROFILE


乃木坂46の“公式ライバル”として誕生。全国オーディションで応募総数3万5678人の中から選ばれた23人で結成され、’23年8月30日に「青空について考える」でメジャーデビューした。11/13(水)に4thシングル「好きすぎてUp and down」を発売するほか、12/28(土)にファンミーティングを、12/29(日)に2024年ラストライブを東京・YAMANO HALL(東京・代々木)にて開催予定。

発売中の、「B.L.T.12月号」では、4thシングル「好きすぎてUp and down」のMV撮影に密着し、4作連続で青空組のセンターを務める八木をはじめ、青空組の奮闘に密着。また、「blt graph.vol.106」には八木がソログラビアで登場。ロングインタビューも必読。ポストカード特典付きも。

さらに、11/21(木)発売の「blt graph.vol.107」には、柳堀花怜が登場! ポストカード特典付きも。

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