’23年3月12日(日)からグループ初のワンマンツアーを開催するほか、3月24日(金)には2ndフルアルバム「王国」の発売を控えるアイドルグループ・fishbowl。
静岡のテレビ番組をきっかけに誕生し、地元・静岡を拠点に活動をする彼女たちに密着。その様子をB.L.T1月号(11月24日発売)にて紹介したが、今回は特別にB.L.T.webでも公開!
fishbowlのことを知ったのは、懇意にしているライターのM氏に勧められたことがきっかけだった。ファーストアルバムの「主演」を聴くとこれが確かに素晴らしい。どんどん好きになり、毎日、聴いた。2022年に聴いたアルバムの中での「主演」の再生数は、間違いなく1、2を争う。そんなfishbowlに、会いに行くことになった。その日は、’22年10月29日。静岡県藤枝市にある静岡県武道館で開催される「ふじえだ産業祭」のライブステージに、fishbowlが出演するのだ。
fishbowは、静岡県を拠点に活動するアイドルグループ。メンバーは、浜松市出身の大白桃子、静岡市出身の新間いずみ、沼津市出身の久松由依、御殿場市出身の木村日音の4人。全員が静岡県で育ち、今も静岡で暮らしている。結成のきっかけは、テレビ静岡公認で発足した「しずおかアイドルプロジェクト」だ。このプロジェクトでメンバー募集を行い、オーディションの結果、6人が合格。’21年の1月から活動を開始し、’22年3月21日に2人のメンバーが活動を終了したことで、現在の4人体制になった。そんなfishbowlのプロデュースを務めるのは、ヤマモトショウ。最近では、FRUITS ZIPPERの「わたしの一番かわいいところ」を作詞作曲編曲し、見事なヒットに導いている。アイドルファンには、フィロソフィーのダンスやばってん少女隊、ukkaらへの詞曲提供や編曲、乃木坂46の梅澤美波の個人PVでのソロ曲「梅色」の書き下ろしなどでも知られているだろう。
そんなヤマモトショウが手掛けるfishbowlの楽曲は、実験的要素と親しみやすさが同居した、ポップミュージックの理想型と言えるものだ。強烈なノスタルジーを覚える曲や胸が締め付けられるナンバー、心が弾むようなグルーヴチューンなど、曲ごとにさまざまな感情や感覚が押し寄せるが、どの楽曲にも凛とした空気感と清らかな透明感、軽やかさ、そこはかとない浮遊感があるのが特徴だ。「主演」以降の楽曲では、よりダンスミュージック的でポップな要素が色濃く取り入れられている印象も強い。そんな楽曲を歌うメンバーたちの歌声は、まだ未熟で未完成で初々しさが残る。しかし、だからこそのキラメキと美しさが今のfishbowlには真空パックされていて、それが彼女たちならではの大きな魅力になっているのだ。
間もなく藤枝市に到着するかというその時、編集のO氏に連絡が入った。メンバーの久松由依が、体調不良のためライブを欠席するという。まさかの事態ではあるが、取材チームは、久松以外の3人のメンバーの撮影とインタビュー、そして3人でのライブを取材することにして、現地に到着した。
11時13分、最初のステージがスタートした。オレンジの衣装に身を包んだ3人が、産業祭に訪れた地元の観客を前に歌い、踊る。観客席後方には、オフィシャルグッズのTシャツや半被を着た熱心なファンが曲に合わせてジャンプをしたり、振りコピをして熱く盛り上がっている。観客席に目を移すと、産業祭に来ていた年配の夫妻や若い親子連れなどが座席に座り彼女たちを見ているなど、普段はアイドルのライブで目にすることのない層が、fishbowlのステージを楽しんでいる。
「平均」や「熱波」など5曲を披露すると、特典会を挟み、本誌の撮影へ。14時からは、2回目のステージがあり、その後に3人へのインタビューが始まった。「もともとアイドルが好きで、AKB48さんのチーム8オーディションを受けたこともありました。その時は、書類選考で落ちたんですけど」。
そう語るのは、最年長メンバーの新間いずみだ。そんな新間を始め、大白も木村も、テレビ静岡で流れていたCMを見た親に勧められてオーディションを受けた。大白は「ミス・ティーン・ジャパン」の最終審査落選後で、「何かすることを見つけたかった」という気持ちが応募を後押しした。木村は親が内緒で応募した結果、書類審査を通過し、ZOOMでの面接の段階で自分がオーディションに参加していることを知ったという。3人に共通しているのは、地元の静岡への愛情だ。「高校を卒業して、働くなら静岡がいいなと思っていました。夏は暑すぎず、冬は寒すぎず、こんなにも過ごしやすい県はないですから(笑)。fishbowlで、アイドルになる夢と静岡で暮らしたいという希望の両方を引き寄せられました」(新間)。
「私も静岡が大好きですけど、何より母のためにも良かったです。母は私のことが大好きなので(笑)、『桃ちゃんを一人で東京に行かせるようなグループじゃなくて良かった! 家から通えるから安全で良かった!』って言ってくれています」(大白)。
「私もずっと静岡で暮らして、そのまま働けたらなと思っていました。静岡は人が温かいし、おいしいものも多いし、家から見える夕焼けに染まった富士山も最高なので!」(木村)。
彼女たちの歌声にはまだ未完成だが、とにかく得も言われぬ〝何か〟が伝わってくる。歌のパート割りは、ヤマモト氏いわく、「デモ音源を送って、自宅でフルで歌って録音したデータを各メンバーから送ってもらい、それを聞いて決めます」とのことだが(ちなみに、全メンバーがフルコーラスをレコーディングした上で歌割りを決める方法は、「私立恵比寿中学」も同様だったりする)、本人たちは楽曲をどう自分たちの中に落とし込んでいるのだろうか?「私は、曲にはいろんな解釈があっていいと思っているので、ちゃんと理解しないというか、あえて自分的な意味はつけないようにしています。最初に聴いた時に感じ取った雰囲気で、楽しく歌おうとか、ちょっと切なく表現しようかなとか」(新間)。
「私は曲を聴くと、最初にダンスが浮かんでくるんです。例えば床に寝転がっているダンスが浮かんだら、そこから演技をしている感じでだんだん感情が乗ってきて、その感情に乗せて歌っています」(木村)。
「曲を聴くと、私はアニメーションで描かれた風景が浮かんでくるんですよ。ライブでも、その風景が浮かんでいる状態でパフォーマンスしている感覚があります」(大白)。
三者三様だが、どれもその個性的で豊かな感受性が垣間見えて興味深い。そんな3人の目標は、ステレオタイプなアイドルのそれではなかった。
「今日、すでに(静岡)武道館には立ったんですけど(笑)、例えば日本武道館ライブは目標ではなくて通過点。目標は〝応援されること〟です」(大白)。
「静岡県と言えばfishbowlという存在になって、みなさんに愛されて、私たちも皆さんを応援できるようなグループになることが、大きな目標だと思っています」(木村)。
「私たちを通じて、静岡を好きになってくれたらうれしいし、それが目標の一つでもあります」(新間)。
4人の撮影と久松へのインタビューは、11月5日に行われた東京・恵比寿のリキッドルームでのライブイベント。
ライブ前、久松にインタビューをする。人懐っこくて屈託のない笑顔が印象的な美少女だ。久松も親に勧められてオーディションを受けたが、彼女にはそうするべき動機が強くあった。
「私、高校2、3年の時に学校で色々トラブルがあって、何もやる気がなくなっちゃってたんですよ。そんな時に親がCMを見て、『受けてみれば?』って。それで、その時の世界から抜け出したかったので受けてみました」。
そんな彼女は、fishbowlに加入して元の自分に戻れたと話す。
「それよりも前の私は、めっちゃ明るかったんですよ。今は、その時の自分に戻れたなと思うし、前を向いて生きられているんじゃないかなと思います。今は、fishbowlを静岡の観光名所みたいにすることが目標になっていますから(笑)」。
久松は、fishbowlの曲をどう自分の中に取り込んでいるのか?
「私は、歌詞が一番大きいです。歌っている時に、自分の経験から勝手にこういう意味かなって思って歌ってますね。私、『観察』が一番好きな曲なんですけど、少し前に同い年の親友を亡くしてしまったこともあって、歌詞にうわーってなります。特に、〈たぶん未来は それほど変わりはなくて 『僕らの存在なんてさ』 言いかけたけど〉という歌詞。別に私の親友が亡くなっても、世の中は動き続けるじゃないですか。そういうことを考えて、歌っている時にストンと自分の感情に入っちゃうっていうか。でも、入ってない曲もあるのでまだ完成途中です」。
ライブでは、その「観察」を1曲目に、計7曲を披露。フロアの盛り上がりは、既にfishbowlの〝熱波〟が東京にも上陸しつつあることを感じさせるものだった。初めてfishbowlを聴く人に勧めてくれたのは、「平均」(新間)、「熱波」(木村)、「半分」(大白)、そして「深海」(久松)。未完成の超新星が完成するその前に、アイドルが好きなら、音楽が好きなら絶対に聴いて、見るべきグループ。それが今のfishbowlだ。
――◆――◆――――◆――◆――――◆――◆――――◆――◆――
写真:田中健児 取材・文:大久保和則
●PROFILE
fishbowl
’21年1月結成の静岡発アイドルグループ。メンバーの出身地ごとに、静岡県内の多くの自治体・企業から応援を受けているというシステムも、グループの大きな特色で、これまで発表した楽曲のタイトルが、全て漢字2文字で統一されているのもまた特徴だ。
’23年3月12日からは「fishbowl 1st oneman tour「ブリストルシュブンキン」supported by JR東海」を開催。さらに、’23年3月24日には、2ndフルアルバム「王国」をリリースする。
その他、詳細や最新情報は公式HP(https://fishbowl.jp/)をチェック。