※この記事は、「【僕が見たかった青空はここにあるのか?】デビュー2周年記念「アオゾラサマーフェスティバル2025」を通して、僕が感じたこととマネジメントが考えたこと。第1回」の続きです。

企画コーナーはライブ中盤にまとめられていた。まずはトンツカタン森本がゲストで登場した「デビュー2年目の通信簿」から始まり、関係者に聞いた各メンバーの成長したところと成長してないところが発表された。メンバーの知られざる一面に感心したり爆笑したりと盛り上がったが、個人的に一番気になったのは、須永心海の見事な進行ぶり。トンツカタン森本と言えば、MCとしても定評があるが、その森本がフリーハンドでメンバーやメンバーの関係者評にツッコミを入れていけたのも、須永がしっかり進行を務めていたからこそだ。本当に淀みのない進行をしながら、森本やメンバーに臨機応変に対応する余裕もある。MCとしての素質を見出されて、この2年、グループの中でその役割を務めてきたとはいえ、たった2年でここまで成長するものか。もはや安定感すら感じる。

続いて、ダンスに力を入れてきた僕青らしいコラボ。Dリーグの2つのダンスチーム、avex ROYALBRATSとdip BATTLESとそれぞれダンスパフォーマンスを披露した。dip BATTLESとは八木仁愛、持永真奈、岩本理瑚の3人が、avex ROYALBRATSとは吉本此那、長谷川稀未、杉浦英恋の3人が共演。23人の中でもダンス力のある6人だったとはいえ、プロのダンサーに混じっても、決して引けを取らなかったのはすごいことだ。この2年の成果をきっちりと見せつけた。
ところで、日本の女性アイドルのステージで、男性が一緒にパフォーマンスをするというのは、思い出せるかぎりで見たことがない。ginjiroとの僕青ダンスメドレーもそうだが、ファンの中には抵抗感を覚えた人もいたかもしれないが、私は「僕青らしくていいじゃん」と思いながら見ていた。男とか女とか関係なく、お互いにがんばっているダンスという共通点があるから、同じにステージに立つ。そういう気さくさというか、親しみやすさが実際にメンバーたちにはあるから、なんだかとても僕青らしいなと思った。

ゲストを迎えたコーナーのあとは、昨年のデビュー1周年記念に引き続き、通常のメンバー編成をシャフルして、この日だけのメンバー編成でパフォーマンスが披露された。今年は「CLASS CHANGE」と題して、3rdシングル「スペアのない恋」活動時の青空組と雲組が入れ替わって、青空組が3rdの雲組曲「涙を流そう」を、雲組が表題曲「スペアのない恋」をパフォーマンスした。雲組は雲組単独公演で「スペアのない恋」を披露したことがあるが、青空組が「涙を流そう」はもとより、雲組曲をパフォーマンスするのは初めてのこと。「涙を流そう」は、2ndで青空組だった杉浦が雲組へ移り、雲組のメインメンバー(センター)として、そして表現者としても覚醒していった1曲だ。悲しみや悔しさ、希望を、見ていて切なくなるほど気持ちのこもったダンスで表現していく。気持ちのみならず、しなやかな、そして緩急自在な確かなダンススキルとともに。そんな1曲に、メインメンバー八木率いる青空組が挑んだ。杉浦以上に当初からダンスとその表現力で注目を集めていた八木が、どう「涙を流そう」を表現するのか。杉浦と八木の比較を「涙を流そう」で見られたことは、スペシャル感があった。八木は持ち味のキレと力強さと眼力を抑えて、あくまで曲の世界観に沿って、しなやかに切なく舞い踊っているように見えた。


それから暗転し、ステージに伊藤ゆずと八重樫美伊咲が登場。八重樫が「伊藤先輩、なんで来てくれなかったんですか。私、ずっと昇降口で待っていたのに!」と訴えると、伊藤が「行かないよ、無理だよ」とそっけなく背を向ける。「昇降口」というワードで会場から歓声が上がった。早﨑すずきと柳堀花怜によるユニット曲「昇降口」につながる前フリだろうと気がついたからだ。先輩に淡い恋心を抱いてしまった後輩という切ない寸劇を伊藤と八重樫が繰り広げるのかと思いきや、「放課後の教室で待っていても来てれくれないし」というグループ最年少15歳の八重樫と、「学校は無理だって。もう高校卒業して6年たってんの!」というグループ最年長24歳の伊藤による面白コントで、2人ともいい間といい表情で観客を笑わせた。そして、早﨑と柳堀ではなく、そのまま最年長&最年少コンビで「昇降口」をパフォーマンスした。

シャッフルコーナーの一環とはいえ、伊藤と八重樫による「昇降口」は意外だった。意外だなと思ったが、すぐに納得できた。伊藤は4thシングル「好きすぎてUp and down」から雲組となり、その悔しさからか、歌もダンスも表情も着実にレベルアップさせてきた。八重樫はどこか自信なさ気なところがあったが、6thシングル「視線のラブレター」収録の雲組曲「虹を架けよう」で、同い年の工藤唯愛とメインメンバーに抜擢されたことで、ぐんと外へアピールする力がついて、以前よりはるかに堂々としているように感じる。がんばってきた2人だからこそ、自分を変えようと努力してきた2人だからこそ、この「昇降口」のパフォーマンスに抜擢されたんだと思う。伊藤は低音の声がよく出ていて、気持ちを込めて歌っているのが伝わってきたし、もともと歌唱力のある八重樫の透明感のある大人っぽい歌声はとても綺麗だった。がんばっているメンバーがちゃんと評価されて、スポットライトを浴びるチャンスを得られるというのは、僕青というグループの素敵なところだ。恐らくメンバーたちにとっても励みになった伊藤と八重樫の抜擢だったのではなかろうか。
そしてここから本編ラストまでの3曲は、23人曲が続いていくのだが、思いもしない選曲からのスタートに会場がざわついた。欅坂46時代の平手友梨奈がセンターを務め、48グループと坂道グループから選抜されたメンバーによる坂道AKBの「誰のことを一番 愛してる?」がカバーされたからだ。これまでに公式ライバルである乃木坂46の「制服のマネキン」「何度目の青空か?」をカバーしてきたが、まさか坂道AKBの曲をカバーするとは想像もしてなかった。面白い! と思った同時に、その選曲の意図を深読みせずにはいられなかった。

48グループでもなければ坂道グループでもない、逆に48グループのようでもあり坂道グループのようでもあるグループ、しいていうなら坂道AKBのような存在が僕青なのだとでも言いたいのではないか……いや、違う。48グループと坂道グループでもなければ、それが合わさった坂道AKBとも異なる、全く新しい独自のグループが僕青なのだというメッセージなのではないか、と。
「誰のことを一番 愛してる?」の歌詞は「誰を殺せばいいのだろう」という刺激的な歌詞が印象的で、恋愛の苦しみを描いているように感じるが、各グループから集まったメンバーたちがそれを歌うことで、まるでファンのことやライバルグループのこと、グループ間でのメンバーのことなどアイドルの苦しみを歌っているようにも聴こえてくるものだった。それを僕青という1つのグループが歌うというのは、そのほかのグループに向けた、あるいはアイドルファンに向けたメッセージをはらんでいるのではないか、とも思った。私の勝手な深読みを、またしても僕青のゼネラルマネージャーである田村氏にぶつけさせてもらった。
田村「いや、そんな深い意味はなくて。シンプルな理由ですよ。あの振りとあの世界観の曲を、八木に真ん中でパフォーマンスしてもらいたいなっていうことが一つ。あと、個々の力っていうところでは、まだやっぱり、ほかのアイドルに僕青は勝ててないと思っているんです。でも、全員でパフォーマンスをすると、ほかのアイドルに勝てているところが結構あるんじゃないかって感じていて。リハとかを見ていても、この子たちはやっぱりすごい! って思う時があるので、今のタイミングだったら、まだカバーをやるべきだなって思ったんですよ。で、僕の引き出しの中で、今の僕青に一番合いそうで、かつ、やっぱり八木が引き立つものってなると、あの曲だなっていう」。
田村氏にははぐらかされてしまったが、結局のところ、私の深読みはそう間違ってはいないのではないか。カバーをすることで、本家と比較して見た時に、より僕青というグループの個性を分かりやすく伝えることができるし、メンバーにとってはほかのグループのカバーをすることで何かしら学びがあるはずだ。だから「今のタイミングだったら」ということなのだろう。
そして実際、僕青だからこそと言っていい圧巻のパフォーマンスを見せてくれた。メンバーごとに違う振りをすることが多い僕青楽曲のダンスとは違って、「誰のことを一番 愛してる?」は全員がほぼ同じ振りをする。そういうダンスを今の僕青が踊ると、こんなふうになるんだという驚きがあった。欅坂46や櫻坂46の振り付けで知られるダンサーのTAKAHIRO氏が手掛けた重厚で意味深長なダンスの世界観を増幅させるように、見事にユニゾンしたダンスはちょっと怖いくらいの迫力だった。ダンスのみならず、歌にも表情にも気迫がこもっていて、それが客席に向かってドンっと押し出されてくるような圧があった。メンバーの誰ひとり気を抜かずに集中して、気持ちを全員でひとつにしているからこそなせたものだろう。23人でパフォーマンスする最初で最後の「誰のことを一番 愛してる?」でもあったから。
リーダーの塩釜が開演前の円陣で「さっき(通しリハーサルを見ていた)田村さんから『誰のことを一番、愛してる?』、声が出ていて気持ちが伝わるって、めちゃくちゃ良かったよって、感想もらいました。坂道AKBさんの曲を披露するわけだけだから、カバーにはなるけど、うちらの表現で、うちらの解釈で」パフォーマンスをしていこうという話をしていた。そんなふうに言えるのはとてもすごいことだ。先輩たちの曲を「うちらの解釈で」挑もうというのは。しかも聞くところによると、TAKAHIRO氏本人から振りの意味やパフォーマンスするにあたってのアドバイスをもらっていたそうだ。それでもただ完コピするのではなく、僕青らしさを彼女たちは大事にした。それはこの記事の第1回目の最初のほうで、田村氏が話していた「僕らは僕らでいい」という考え方にもちゃんと通じている。

田村「本当に深いメッセージ性は別にないんだけど、23人が揃った時のパフォーマンスがめちゃくちゃいいなと思っているから、全員でパフォーマンスした時のパワーって僕青はすごいなと思っているから、この曲をカバーさせてみたかった。『誰のことを一番 愛してる?』は、もともとは18人曲なんですよ。だから、18人でやるべきなんじゃないかって、(リーダーの)塩釜と(副リーダーの)柳堀に『どうする?』って聞いたんです。そしたら『全員でやりたいです』って答えだった。もちろん僕は23人でやる腹でいたんですけど、『全員でやりたいです』ってメンバーに言わせたかった。『全員でやりたいです』って言ったからには、例えば全然振りが揃ってないとか、全然歌が歌えていないとか、そういうことに関してメンバー自身でそこにコミットしていかなきゃいけなくなるじゃないですか。もちろん僕らもコミットするけど、メンバー自身がコミットすることがすごく大事なので。そのためには、僕らだけで決めるんじゃなくて、メンバーに選択させることが大切かなと思っていて」。
大人が決めたことをただやらせるのではなく、自主性を育み、個を引き立たせる。一人ひとりの個が立ち上がった時、そのグループはより強いパワーをきっと発揮するであろう。そのために、選抜制、ツアー前の合宿、『全員でやりたいです』という一件などがあったと思う。田村氏率いるマネジメント陣の想いは着実に実り始めていて、今回のセトリのエピソードにもつながっているし、23人でのパフォーマンスの強靭さにもつながっている。そして興味深いのが、僕青のダンスを指導から振り付けまで担うENTANARDがそれをちゃんと形にして見せてくれるのだ。特に23人曲で。個を立たせながらグループとしても引き立たせるようなダンスというか、それぞれのメンバーに役割を持たせながら、全体として一つの世界観を描いていく。デビュー曲「青空について考える」からそうだったし、今回のライブで初披露された「あの頃のトライベッカ」もまさにそうだった。「誰のことを一番 愛してる?」と同様に、23人でパフォーマンスするのは最初で最後となった「あの頃のトライベッカ」。ぜひ、「誰のことを一番 愛してる?」と「あの頃のトライベッカ」のライブ動画を見比べてみてほしい。
田村「『あの頃のトライベッカ』、良かったですよね。あれ好きなんですよ。ENTANARDの振りって、やっぱり全員曲で一番生きる。これはすごくそう思う」。
僕青のオリジナリティーが「あの頃のトライベッカ」には詰まっていた。
田村「そう。僕青のすごさってやっぱり全員揃った時のすごさなんじゃないかな。たまに主張がないように思えるし、個がちょっと弱いなっていう時期もずっとあったんですけど、それが今だいぶ変わってきている。それぞれに強みが出てきて、その子たちが一団結した時の強さが、ここにきてすごいあるなと思います」。
そんなデビュー2周年のタイミングで、ひとりが卒業し、ひとりが活動休止を発表した──。
(つづく)
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撮影=田中健児
取材・文=小畠良一
⚫︎PROFILE
乃木坂46の“公式ライバル”として誕生。全国オーディションで応募総数3万5678人の中から選ばれた23人で結成され、’23年8月30日に「青空について考える」でメジャーデビューした。現在、舞台「夏霞」が上演中。
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