もどかしい、本当にもどかしい。ライブを見ている途中でも、見終わったあとでも、そう思った。こんなにメンバーの気持ちが伝わってくる、内容的にも見応えのあるライブを行っているのに、どうしてもっと売れないのだろうか、もっと大きな会場でライブを開催できていないんだろうか。もっとたくさんの支持を得られていいはずだと思うからこそ、もどかしくて仕方がなかった。
僕が見たかった青空が8月31日に開催した「アオゾラサマーフェスティバル2025」はデビュー2周年を記念したライブだった。デビューイベント、1周年記念ライブと同じ東京・豊洲PITが会場だった。動員は前2回より増えていただろうし、ほぼ満員のように見えたが、ソールドアウトを出すことは叶わなかった。とはいえ、6作目となる最新シングル「視線のラブレター」は初週売上が自己最高の10万枚を突破するなど着実にファンの数は増えているし、彼女たちのライブパフォーマンスは見るたびにレベルアップしていて、あまたいるアイドルグループの中でもすでにトップレベルの実力を持ちつつある。それにつけても、まだ僕青のライブを見に行ったことがないという人は、ぜひ一度、足を運んでほしい。別に誰に頼まれているわけでもないが、僕青のライブを多くの人に見てもらいたい。きっと心に響くものがあると思うから。



終演直後、あまりにもどかしくてやるせなくて、僕青のマネジメントの責任者である田村謙典氏に、私の勝手な思いをぶつけてみた。活動全般の方向性を決めていると言っていい田村氏が、現状をどう捉えているのか知りたかった。
田村「僕らは僕らでいいじゃない、っていう感じですね。あんまり(ほかのアイドルグループを)追いかけも別にしないし。追いかけたって仕方ない。彼女たち(=僕青のメンバー)には彼女たちのいいところが別にあるから。それをどうやって生かそうかなって考えた時に、どうするかってことだけなので。あんまりほかと比べて意識していることはないんですよ。一つひとつ着実に積み上げていくしかないから」。






冷静な返答に、やきもきしていた自分が恥ずかしくなった。ここまでの活動を見ていれば、特にライブを見ていれば、僕青というグループが本当にバカみたいにひたむきにレッスンを積み重ねて、今に至っていることを知っていたではないか。“乃木坂46公式ライバル”という当初の大看板さえ、すでに忘れてしまうくらい、僕青は僕青の道を進みはじめていることにも気付いていたはずなのに。いちおう付言しておくが、乃木坂46という大きすぎる目標から逃れるために、田村氏は「僕らは僕らでいい」と言っているのでないことは、僕青のライブを見ればきっと分かるはずだ。また、引き続き行った田村氏のインタビューを交えながら、「アオゾラサマーフェスティバル2025」を振り返ることで、「僕らは僕らでいい」というその真意が伝わればいいなと思っている。
「アオゾラサマーフェスティバル2025」は2周年記念というほかにも、特別なライブだった。結成から苦楽を共にしてきたメンバー23人が揃ってステージに立つのはこの日が最後だった。山口結杏が10月末にグループ初の卒業をすることを決意し、木下藍が学業に専念するため9月末で活動を休止することになったからだ。


木下が活動を休止する9月末までにも僕青のライブは予定されているが、青空組と雲組それぞれの単独公演となるため、初期メンバー23人が揃ってライブをすることはもう実現しない。ただでさえ初期メンバーということで「23人」ということにメンバーもファンも思い入れがあったが、2ndシングル「卒業まで」から選抜制が導入され、青空組と雲組に分かれたことで、23人で僕青なんだ、23人で夢を叶えるんだということを、より強く意識するようになったと思う。実際、たびたびそういうことをメンバーも表明していただけに、23人でなくなってしまうことへのショックはとても大きかっただろう。
開演20分前、メンバーは楽屋前の廊下で円陣を組んでいた。リーダーの塩釜菜那がいつものようにメンバーを鼓舞すべく話をしようとするが、23人で最後のライブになることにまず触れると、すぐに目が潤んで今にも泣き出しそうになる。すると、ほかのメンバーたちが「泣いちゃダメ!」と笑いながら制止。本番前に泣いてしまったらメイクは崩れてしまうし、一人が泣き出せばみんなが泣き出してしまうことは分かっていたからだ。そこで塩釜は、両手で自分の目を隠しながら話を続けた。


塩釜「寂しいけど、楽しみたい! ファンの人は不安とか持ちながら来る方もいると思うんだけど、うちらに任せとけっていう自信を感じてもらえるような、そういう前向きになれるようなライブにできたらなって思っています」。

そう静かに語ったが、少し間をおいて、自分にもメンバーみんなにも気合を入れるように「じゃあ、心の底から楽しんでいこうぜ!」と叫んだ。そして「じゃあ、藍ちゃん」と、活動休止前、僕青全員でのライブに出演するのは最後となる木下に言葉を求めた。木下は「いちおう雲組(の単独公演)が最後(のライブ)だけど、青空組のみんなのパフォーマンスとか見られるのは……」と言って泣きそうだったので、「だから泣いちゃダメだって(笑)」とほかのメンバーたちにツッコまれてしまう。

涙をこらえて途絶えながら「(青空組のみんなのパフォーマンスが見られるのは)最後だから、いっぱい見るし……。ほんとにみんなと過ごせて……ほんとにありがとうっていう気持ちでいっぱいです」と話して、塩釜と同じ言葉で締めくくった。「(今日のライブを)楽しみましょう!」と照れ笑いしながら。

23人での最後のライブということで、全曲23人曲でセットリストを組むようなことも考えられたかもしれないが、そうはしないところに、今、前を向いて走り続けている僕青の、というか、マネジメントの気概のようなものを感じた。寂しさに浸るのではなくて、これまでのライブと同様に、メンバーが今、見せられる最大限のことに、この「アオゾラサマーフェスティバル2025」でも挑戦していこうと。メンバーもそれをよく理解しているからこそ、「寂しいけど、楽しみたい!」「楽しみましょう!」という塩釜と木下の発言になってくるのかもしれない。



“フェスティバル”とライブタイトルに冠しているだけにお祭り気分のにぎやかな企画が盛りだくさんだった。もちろん僕青の醍醐味と言っていい23人曲をしっかりと見せてもくれたし、最新シングルのカップリング曲「偶然ルーレット」「残り時間」「あの頃のトライベッカ」の初披露、坂道AKBの「誰のことを一番 愛している?」のカバー、青空組が雲組曲「涙を流そう」に初挑戦したシャッフルなど、多彩な見せ方でパフォーマンスを繰り広げた一方、プロダンスリーグ「D.LEAGUE」に所属するダンスチーム・avex ROYALBRATS、dip BATTLESとのコラボ、「#背中男」ことダンサーで動画クリエイターのginjiroとのダンスメドレー、TikTokLIVE「僕青青春学園!放課後は楽しまナイト!」で共演していたトンツカタンの森本晋太郎との面白企画「デビュー2年目の通信簿」といったスペシャルゲストを迎えてのコーナーも充実していた。






















田村「(今回のライブ出来は)よかったと思っていますよ。でも、正直に言っちゃうと、初めて上手くいかないかもなと思いながら迎えたライブだったんです。ゲストのこともそうだし、坂道AKBのカバーもそうだし、シャフルもそうだし。メンバーにはそんなこと、伝えてないですけど。そういう新たな挑戦を乗り越えたのはすごく良かったなと思います。で、間違いなくそれはメンバーのパワーで乗り越えたのかなって」。


メンバーのパワーとは?
田村「いやもう歌とダンスと、あとはやっぱり塩釜のMCじゃないですか(笑)。塩釜の話が最後にあったら全部丸く収まる気がするんですよね。『僕青のライブ、良かったな』になる。ちょっと話、長いなと思う時もあるけど(笑)」。
半ば冗談、半ば本当のことだろう。アンコールの際に行われるリーダー・塩釜のMCは、MCというか、ファンやメンバーに語りかけるスピーチのようなものは、もはや僕青のライブに欠かせない時間になっている。その時その時のグループのこと、メンバーのこと、自分のことを、気持ちのまま赤裸々に語る塩釜の話は、毎ライブ、胸を打たずには置かない。たいがいその日のライブの意義が塩釜の話には詰まっている。今回、印象的だったところを一部抜粋しておこう。「寂しいけど、楽しみたい!」に通じているところだと思う。塩釜の話に始まり、塩釜の話で終わるのが僕青のライブと言っても、あまり言い過ぎでもないだろう。

塩釜「(23人で最後のライブになってしまう今日)すごく立ち止まりたいところではあるんですよ。だけど、私たちは日々前に進んでいかないといけない。“僕が見たかった青空”ですから、快晴を見に行かないといけないから、立ち止まっているわけにはいかない」。

セットリストを組むのも田村氏の仕事の一つだが、それに関連して「メンバーのパワー」についてこんな話もしてくれた。
田村「セトリができるじゃないですか。どんなにいいセトリだったとしても、それでもうライブが絶対成功するなんてことはなくて、セトリだけではどこまでいっても50点くらいまでしかいかないんですよ。僕らのできることってそこまでで、メンバーのパワーがあって100点にできるんですよね。あと今回、セトリを作ってから、(杉浦)英恋や塩釜からここはこうしたほうがいいんじゃないかって意見が初めて出てきたライブで。今までって僕らの決めたセトリに対して、メンバーから何か言われることって別になくて、いつもそのまま進んでいたんですけど」。

Overture「僕青のチャイム」が流れたのち、登壇したメンバー23人が円陣を組んで、お決まりの「一番輝く太陽に。夢や希望をどこまでも。届け〜! 僕が見たかった青空!」という掛け声をしてから、1曲目の「好きになりなさい」のパフォーマンスをスタートさせたのは、塩釜と柳堀の提案だったそうだ。「TOKYO IDOL FESTIVAL2025」で初めてしたことをワンマンライブでもやってみたいと。普段はステージ裏でしていることだが、23人最後の円陣をファンに見せておきたかったのだろう。

また、アンコール2曲のうちの1曲目「青空について考える」は早﨑すずきのピアノ伴奏による合唱バージョンで披露されたが、途中、伴奏を止めて、ファンに歌ってもらうくだりも、塩釜から提案されたものだった。ファンが歌い、それに重ねるように、早﨑の演奏とともに22人も再び歌いはじめ、文字通り、会場に一体感が生まれていた。見失っていた希望を再び見出していくという歌をファンとともに歌いながら、ほとんどのメンバーが涙を流していた。ステージの端でピアノを弾いていた早﨑のそばに、塩釜が駆け寄り、演奏を止めさせて、ステージ最前に連れ出し、早﨑を含めた23人で一緒に歌う形にしたのは、塩釜のその場のアドリブだった。





田村「あと、アンコール最後の『初めて好きになった人』は撮影可にしようとしていたんですね。撮影可にする曲っていつも最後のほうにしていたんですけど、英恋に『最後、ファンのみんなは飛び跳ねたいと思う。自分たちも飛び跳ねさせたいし、盛り上げたいから、撮影可は1曲目にしないですか?』って言われて。それで撮影可が1曲目になったんですよ」。










メンバーのみならず、ファンも涙していた合唱曲で、会場がしんみりと感動ムードに包まれているなか、杉浦が「皆さんも気持ちを爆発させたい気分だと思うので、最後の楽曲はぜひみんなで、たくさんはしゃいで、笑って、飛んで、叫んで、最後にいい思い出を作って、みんなで楽しく、おうちに帰れたらと思います」と話して、最後の1曲「初めて好きになった人」に繋いでいった。メンバーははっぴをはおり、頭にお面をのせ、うちわを持ち、ファンは手にスマホを持つ煩わしさなく、お祭り気分で大団円を迎えることができた。




田村「セトリに対してメンバーからの意見が出てきたことは、今回のライブのよかった点の一つじゃないかな。それが僕らも望みで。基本は全体のバランスを見て、大人がセトリを作るべきだと思うんですけど、そこにメンバーのエッセンスを入れていくことで、メンバーも責任を持ってやらざるを得ないというか、やるぞっていう気持ちになると思うので。だから、1年前ぐらいから『君たちが何を考えているのか知りたい』ってずっと言い続けてきて、それがやっと形になってきました。もしかしたら柳堀(花怜)が副リーダーになったタイミング(※今年6月)で、ちょっと変わってきたのかもしれない。柳堀が塩釜の背中を押している感じがしますね」。


柳堀のパフォーマンスを見ていても、何か今まで以上に感じさせられるものがあった。自分のやるべきことがはっきりと見えてきて、歌もダンスも表情もMCも、そして副リーダーとしても、堂々としていて、迷いがないように思えた。リーダーとして迷いながら泣きながら孤軍奮闘してきた塩釜を、副リーダーとして柳堀がおおやけに支えられるようになったことは、塩釜にとっても、グループ全体にとっても、大きな意義があったに違いない。
(つづく)
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撮影=田中健児
取材・文=小畠良一
⚫︎PROFILE
乃木坂46の“公式ライバル”として誕生。全国オーディションで応募総数3万5678人の中から選ばれた23人で結成され、’23年8月30日に「青空について考える」でメジャーデビューした。現在、舞台「夏霞」が上演中。
僕が見たかった青空公式WEBサイト:https://bokuao.com/
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