葵うたのweb連載【葵色日記】#15 冬の越しかた

寒い。ここ最近、また気温がグッと下がり、もともとアクティブに動けない私はさらに身動きが取れなくなっています。
住んでいる東京の家はオール電化で、電気代が上がった今、いかに暖房を付けずに生活するかを考えています。
母には「家の中でも、寝る時でも服を着込んで暖かくしなさい」と言われているのですが、私は厚着をするのが得意じゃない。

首が詰まっている服は息苦しくて、無意識に首元を下に引っ張って生地を伸ばしてしまう。
寝る時は下着だけで布団に入った方が落ち着く。
靴下を履いて寝るなんて拷問だ。

ただ、そんなことは言っていられないし、いずれまた春は来る。
むしろこの冬を楽しんでやろうと思う。

ここまで、ソファーに座ってローテーブルの上に置いたパソコンでこの連載を書いていたのですが、腰が痛くなってきたので、寝っ転がって膝の上にパソコンを置きました。
それまで膝の上にいた愛犬が私の左腕に乗って眠りだしたので、ここから片手でタイピングしていきます。
急になんの話? って思いますよね。
寝顔が可愛くて、暖かくてなんか笑ってしまったので、ご報告させてください。

話は戻って家の中での冬の楽しみ方といえば、まず食事。
鍋が一段と美味しく感じます。

しかも食材を切って入れて煮込むだけ!
洗い物もそんなに出ないし時間も掛かりません。
でもそれだといつもと変わらないので、ちょっと工夫を。

冬の贈り物、チヂミほうれん草を使います。
寒い環境で育つので、葉肉は厚く色濃くなりギュッと縮んでいます。
なおかつ寒さで凍らないよう糖分を蓄えているから、苦味もさほど強くなくて、鍋にするとほどよく甘くて絶品なのです。

まず、ボウルに水を張ってチヂミほうれん草を浸します。
甘いといえど、アク抜きは必須。

その間に大根(大好きで万能なので常に家にある)を食べたい形に切って、秋田でゲットした比内地鶏の白だしで煮込む。
あとはアク抜きしたチヂミほうれん草と豚バラを入れて、すりごまをたっぷり入れたポン酢で食べれば完璧です。
これもまた、冬の醍醐味。

料理と言えるほどの工程ではないんだけど、これを写真に撮って母に送ると褒めてくれます。
実家にいた時は外食ばかりで自炊はしていませんでした。
少し前に実家に帰った時、母にポキ丼(マグロ、サーモン、アボカドを醤油とごま油で和えて丼にしたもの)を作ったら感動していたので、料理をしたら毎回写真を送って、アピールしています。

なんのアピールかは分からないけど。

ここで一息、暖かいコーヒーを飲みたくなったので起きようと動いたら、愛犬がムクッと無言の圧で見つめ、腕で押さえつけてきたので断念……しません。
こんな寒い部屋で、毛布でぐるぐる巻きにされて不満も尽きないだろうが、許しておくれ。

いそいそと台所に向かってヤカンでお湯を沸かす。
昨晩、スリッパの片方にビールをこぼしてしまい、現在洗濯待ちなので、冷たい床を爪先立ちで歩き、台所マットに避難します。
水道水はしっかり沸騰させたいのでしばらく待ちます。

その間に音楽をセレクト。
いつも聴いているアーティストの曲を流そうと思ったら、画面の下、関連の項目に、気になるグループを発見。
アーティスト写真もイケてるし、曲も心地良くて、ほどよく遊び心に溢れていて、ゆるりと馴染む。
いい感じ。

しかし便利な世の中だなぁと思う。
この小さい機械に、私の情報や思考、思い出までもが記録されていて、出会いも操作されているみたい。
それも正確に。つまらないと思うか、うまく利用して発展させるか。

この出会いに感謝して、後で深掘りしてみよう。気になるリストにメモる。
少しの反抗で、このメモは紙とペンを使っています。

カタカタとヤカンの蓋が音を鳴らしだしたら火を止め、ほどよく冷めるのを待つ。
この待っている間にヤカンを揺らす。上がっていく蒸気を顔に浴びるのが好きだ。

仕事以外のことはほとんどいい加減な私も、このコーヒーを入れる瞬間は慎重です。
誰に飲んでもらうわけでもないから気楽で自由。
1回目、じっくりゆっくりお湯を注いで膨らんでいくコーヒー豆を、真顔で眺めている(内心はニヤニヤ)。
ぽこっと気泡が破裂すると、これまたにやける。

コーヒーを手に戻ると、さっきまでベタベタだった愛犬は私のベットですやすやと寝息を立てている。
ほっとしつつも少し寂しい。文字を打つスピードは速くなる。

私の育った家では、みんな個人として生活していた。母、弟、私と犬たちの5人が住む家。
一緒に食卓を囲む、お風呂はためて順番に入る、冷蔵庫にキンキンに冷えた美味しい麦茶がある。
そういった類の家ではなかった。

思春期の頃はそれが寂しく、20歳頃の私は、その生活や生い立ちを悲観していたけれど、今はなんとも思っちゃいない。
むしろ自由でよかった。

同じ家にいても、みんな自由で、いるのかいないのか分からないけれど、ちょうどいい距離感だった。
それにたくさんの人に愛情をもらっていた。
みんな家族であることには変わりない。このくらいがいい。

事実、母はいろいろな場面で私をしっかり見守ってくれていたから、今があると思う。
見ていないとそれはできない。
私たちが寝ている間にこっそり寝顔を見ていた母の顔があったのかもしれない。
徒競走で、ビリでも必死に走っていた私の姿を、こっそりと遠くから見ていたのかもしれない。

想像力は、読書、映画鑑賞、お芝居、人と関わる時でも必要不可欠だと思う。
表面的に記録されたものではなく、自分自身の中から沸き出てくる感覚。
この想像力は時に私たちを優しく温めてくれる。

案外、記憶なんて曖昧で、最近は母と昔話をすると、驚いたり、思い違いがあったりする。
親がどんなにがんばっても、意外と子どもは覚えていなくてがっかりさせてしまうこともある。

そんな話をお酒を飲みながらできるのが最近嬉しい。
当たり前じゃないことばかりだけど、この瞬間も思い出も、できるだけ忘れないよう大切にしたいと思います。
誰かと一緒に歳を取るのは楽しい。

なんだかしんみりしてしまったが、今日は愛犬と冬のピクニックを楽しんでやろうと思う。
その時の話はまた次回。

春を待って。

【毎連載恒例のオススメの一冊】

「生きるとか死ぬとか父親とか」/著者 ジェーン・スー

#16は2月20日(月)の公開予定です。

●PROFILE
葵うたの aoi utano
’99・7・4埼玉県出身。蟹座。B型。
俳優・タレント。ドラマ「ガールガンレディ」などの出演経験があり、アニメ「Artiswitch」では主人公の声優を担当。ドラマ「召し上がれ♪ ぼなぺてぃ。秋田のお菓子たち」(秋田放送)が放送中(TVerでも配信)で、レバレジーズメディカルケア株式会社「レバウェル看護」のCMに出演中。

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