結成2年目。欅坂46のダイナミズムは日々、進化=深化を遂げている。

湿気を振り払うかのように夏の夕風が吹く中を「Zepp ダイバーシティ東京」を目指して歩く。会場のエントランスをくぐり、ホールへと続く階段を降りながら感慨にふけっていた。去年の11月14日と同じ場所で同じグループを見るのに、こんなにも心構えが違うものになるとは、9カ月前には思いもしなかったからだ。ファンを前にしての初イベント「お見立て会」のリハーサルに臨む、緊張でガチガチだった彼女たちの姿が脳裏によみがえる。ステージの袖から出てきた時、「笑顔で元気に手を振って」とスタッフに指摘されるくらい顔をこわばらせていたことが、もはや懐かしい。もっとも当時は、本番の自己紹介でも涙をこらえきれず声を上ずらせるなど、いろいろと不慣れだった彼女たちがどんなグループに育っていくのか、まったく予想がつかなかったのも確か。今となっては、そんな浅はかな〝見立て〟を、あざ笑うほかないのだが。

2016年8月8日。暮れなずむお台場エリアは、「TOKYO IDOL FESTIVAL 2016 (=TIF)」を楽しむ多くのファンで沸き返っていた。その会場の一つである「Zepp ダイバーシティ東京」のホール内も、欅坂46のライブ開始を待つファンで埋め尽くされている。むせ返るような人いきれの中、ガットギターのリフをフィーチャーした「Overture(Version 3)」が流れ出した。フロアの熱気はさらに増し、無数のサイリウムが揺れる。やがて、漆黒に包まれたステージ上を人影が動き、陣形を整えていく。音が鳴りやんで一瞬の静寂をつくって間もなく、ピアノとアコギ、ストリングスのアンサンブルで織りなされる「サイレントマジョリティー」のイントロと共に、ステージがライトで照らされた。かつて同じステージ上を不安そうに立っていた20人は、楽曲のイメージに沿った凛々しい表情で、体を揺らしながらフォーメーションを展開させていく。振り付けの大きな見せ場である2番サビの〝モーゼの十戒〟をはじめ、要所要所で細かく手足の動きをピタッと揃えた一体感とキレの良さが、以前に増してダンスのダイナミズムを際立たせていた。

圧巻は、セカンドシングル「世界には愛しかない」の2番だった。フロント、2列目、3列目が次々と隊列を入れ替え、各自が複雑なポジションチェンジを繰り返しながら、やがてグループのロゴマークである三角形をかたどっていく。その一連の動きを目の当たりにして、思わず目頭が熱くなった。パフォーマンスを見るたびに精度の高まりを感じてはいたが、セカンドシングルをリリースするまでのわずか数カ月間で、これほどの〝進化〟を遂げていようとは、やはり思いもしなかったからだ。つくづく〝見立て〟がなっていなかったとしか言いようがない──。

この「TIF」を筆頭に、欅坂46は今夏、いくつものステージでライブを行った。場数を踏んだ分の経験値が確実に血肉となったことを実証してみせたのが、9月24日に出演した「@JAM×ナタリーEXPO 2016」でのパフォーマンスだ。すっかり〝オープニングアクト〟として、会場の空気づくりが任された感のある今泉佑唯と小林由依によるフォークデュオ「ゆいちゃんず」が「渋谷川」で美しいハーモニーを響かせ、オーディエンスの意識をグイッとステージへ引き寄せる。高揚感を煽る「Overture」でボルテージが高まったところで、「世界には愛しかない」を披露。振りの緩急だけではなく、表情の繊細な変化にいたるまで〝深化〟を感じさせる表現力は、見ていて頼もしいとさえ思えるほど。「TIF」のZEPPライブ以来となる「キミガイナイ」(「サイレントマジョリティー」のカップリング曲。「シンシロ」期のサカナクションを彷彿させるサウンドと、ふとした夜に感じる、誰もが抱く小さな孤独を歌った詞は、耳の肥えた音楽好きの評価も高い)で会場を沸かせ、ダンスの激しさと難しさが評判の「語るなら未来を…」で、ステージも客席もさらに熱を帯びていく。「blt graph. Vol.10」の取材でMV撮影現場に張り付いた時よりも数段クオリティーが上がっているように感じられたが、まさに全員で謙虚に努力を重ねてスキルを磨いてきた成果だと言えるだろう。

菅井友香、志田愛佳、守屋茜、渡辺梨加、渡邊理佐の高身長メンバー5人のユニットによるカップリング曲「青空が違う」を挟み、ライブはいよいよクライマックスへ。ストーリー仕立ての振り付けで初々しい恋模様を歌う、欅坂46随一のポップチューン「手を繋いで帰ろうか」のイントロが流れる。この日のステージは花道がせり出していたのだが、その最先端で主人公カップル役の菅井と守屋をフィーチャリングするという、スペシャルバージョンを繰り出すという粋なはからいに、膝を打った。ほかのメンバーも、花道の構造を最大限に生かした動きにアレンジされたフォーメーションで、ステージを目一杯広く使い、生き生きと踊っている。その躍動感とはつらつとしたパフォーマンスを目に焼き付けながら、この時間がいつまでも続けばいい──と心の中でつぶやいた。

冠番組「欅って、書けない?」や「KEYABINGO!」、メンバーが総出演したドラマ「徳山大五郎を誰が殺したか?」などでも、彼女たちの魅力は存分に堪能できる。だが、やはり欅坂46の真骨頂はライブにあると、結成2年目という節目にパフォーマンスを目の当たりにしたことで、確信を得た。1年の間に5年分くらいの濃密な経験をともにしてきたメンバーたちの絆と、互いを思いやる優しさ。それでいて個々が自分に厳しく、ストイックに課題に取り組み続ける。大げさではなく、奇跡的に出会った21人だからこそ表現できるステージが、欅坂46のライブにはある。

確かに、(現段階で)グループの象徴にして圧倒的存在感を誇るセンター・平手友梨奈が中心にいることは間違いない。だが、彼女以外のメンバーを入れ替えて欅坂46が成立するかというと、答えはノーだ。

なぜなら、彼女たちのパフォーマンスは楽曲の世界観と詞の意味と深く連動したものであり、そこを理解していなければ、上辺だけをなぞる軽い表現となってしまうからだ。さらに言えば、ともに苦楽を味わい、平手のパーソナリティーを知り尽くしているメンバーたちだからこそ、彼女がポテンシャルを発揮できるという側面もある。そして、もう1人──コレオグラファーTAKAHIRO氏の存在抜きに、グループのことは語れない。彼の振り付けは、あらかじめ定められたポジションにとらわれることなく、曲の展開に沿ってドラマチックにフォーメーションを変動させていく。その一連の動きは、フロント・2列目・3列目というのは〝序列〟ではなく、あくまで曲の開始時の立ち位置に過ぎない、と思わせるくらい革新的。実際、「サイレントマジョリティー」にしても「世界には愛しかない」にしても、メンバー全員が一列に並ぶ箇所があるのは、近年のグループアイドルを語る上で当たり前となっていた〝序列システム〟という概念に対する彼なりのアンサーと読みとることもできる、と考えるのは深読みしすぎだろうか──。

何にしても、グループ全体の意思統一のもと、メンバー全員が相互関係を築き上げてこそ欅坂46のパフォーマンスは完全体になることは間違いない、と言っていいだろう。彼女たちが常々「誰1人欠けても、欅坂46じゃありません」と口にするのには、そういう意味合いがあるのだと、勝手ながら解釈している。

最後に、先日「blt graph.11」でのインタビュー時、こんな話をしてくれた小池美波の言葉を遅ればせながら紹介して、結びとしたい。

「私自身もそうですし、メンバーともよく話すんですけど、〝アイドルの壁〟を壊したいねって。アイドルではあり続けるけれど、これまでのアイドル像とはまた違った、クールな感じだったり──『欅はライブがかっこいいね』って言われるような方向を目指したいねって、みんな思っているんです。それは、TAKAHIRO先生が21人──あ、これは〝漢字欅〟の場合ですけど、全員の魅力を引き出すために、フォーメーションをすごく考えてくださっていることが大きかったかもしれないですね。3列目と1列目が入れ替わったり、2列目がフロントに立ったり、センターに立つメンバーが替わったり──という、いろいろな動きをしていく中で、それぞれが『自分がグループにいる意味』だったり『欅のために自分は何ができるか』といったことをすごく考えるようになった気がします。グループ全員が輝けるという振り付けにしていただいたことで、ファンの方にも『推しメン以外のメンバーの魅力にも気づくことができた』って握手会やファンレターで教えてもらうことが増えたんですよ。『世界には愛しかない』で、欅坂46のロゴマークの『⊿(三角形)』をつくる時、あかねん(=守屋)がセンターに立つんですけど、私自身もそこに立っているあかねんに新たな魅力を感じたんですね。それから、(上村)莉菜、虹ちゃん(石森虹花)、ふーちゃん(齋藤冬優花)に織田奈那といった3列目のメンバーが1列目に来るフォーメーションの時に、みんな……どう言えばふさわしいのかわからないですけど、何て言うか〝フロントの顔〟になっているんですよ。それを映像で見た時、今までは自分たちで〝何列目〟っていうことに縛られすぎていたかもしれないな、と思いました。だから、というわけやないんですけど、欅坂46のみんなとだったら、何か新しいことをできそうな予感が自分の中にはあるんです」。

デビューシングルから2枚連続で「全員選抜制」を採択してきた欅坂46の哲学は、サードシングルにも引き継がれるかは正直なところ、わからない。だが、これだけは確実に言える。メンバー全員で臨むからこそ見えてくる新しい地表と景色が、坂道を駆け上がった先には広がっているのだ、ということを。2年目を迎えての最初の一歩をどう踏み出すのか、しっかりと見届けたい。

 

text=平田真人